第40話 海猫渡る - 雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)

文字数 410文字

 鳥居をくぐると、すぐのところに宮司さんが待っておられた。
 金兵衛さん。初雷(はつかみなり)をききまして、お越しになる頃合いと思うておりました。
 金兵衛は深々と礼をする。はい、今年もよろしゅうにお頼み申します。
 振り返ると後ろに控えていた一番弟子の銀兵衛と長兵衛に告げた。いっとき、ここで待っていてくれぬか。

 ありがたきこと。
 祝詞が終わっても金兵衛は(こうべ)を垂れたままだ。
 脳裏に浮かぶは海原を舞う海鳥。あのかたが、海猫にゆかりの深いあのお方があったからこそ、(わし)は今でもこうして立っていられる。
 だから海猫が渡るこの季節は、己を省みて(はら)い清めて立ち返って、また道を見定めて。荒波が岩をたたくあの島へ、卵を抱きに鳥が戻ってゆくように。
 さあ、
 金兵衛は頭を上げ姿勢を正すと大きく両の手を広げ、
 ぱあん。
 柏手を打った。
 
 澄んだおとが、境内の銀杏の新芽の間を抜けてゆく。
 銀兵衛と長兵衛は、そのおとを追って背筋を伸ばす。

<了・連作短編続く>
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