第14話 冬至芽 - 乃東生(なつかれくさしょうず)

文字数 425文字

 遠国で食うたは、これか。安兵衛は大福を差し出した。
 おお、かような(あお)であった。二つに割り、しげしげと餡を眺め、金兵衛は片割れを口に放り込む。うむ、美味い。
 やはり、ずんだであったか。菓子屋の大旦那は満足そうに頷く。
 儂の話からこしらえてしまうとは、さすがよ。金兵衛は残りを味わい、茶を啜る。

 いぐさの香りは良いのう。金兵衛は紺色の新しい畳縁(たたみべり)を見やる。
 隠居の身ゆえ、もうよいと言うたが、倅が手配してくれたのだ。相好を崩した安兵衛は、すぐに真顔に戻る。畳屋の若い衆、みごとであったぞ。
 親方が、できておるからの。厳しいが怒りつけたりはせぬ。
 そこよ、金兵衛。親方とはそれだけで恐ろしいもの。余分な気遣いをさせぬよう、整えるが肝要ぞ。

 冬至芽(とうじめ)の元気がいいのう。金兵衛の目に、安兵衛が手塩にかけている菊が映る。
 お主のところもそうであろう。銀兵衛に、長兵衛。
 それを言うならお主の倅よ。
 
 湯屋では長兵衛のくしゃみに柚子が跳ねておる。

<了・連作短編続く>
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