第7話 落葉衣 - 朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)

文字数 416文字

 長兵衛っ、と、がなるのはまだ声変わりしておらぬ、男子子(おのこご)のものである。斜面に、坊が仁王立ちして、おのれの顔ほどもあろうかという八手(ヤツデ)の葉を構えておる。
 やあやあ、銅十郎天狗どのではないか。
 天狗はにかっと笑うと、そちの悪しきもの払ってしんぜる、と右の手で八手を左右に振る。しゃがんだかと思うと左の手で落ち葉を湯のようにかけてくる。そんなら(わし)からもおかえしを、長兵衛も両手一杯に葉を掬いあげる。銅十郎の連れていた赤茶色の犬が吠える。
 二人と一匹は、木立の中を紅いのやら黄色いのやら、茶色いのやら、葉に塗れて走り回った。からだについた木の葉を、ひゅうう、と風が払う。これだけ駆けていると北風も寒うはない。
 
 あちらの地面が波のようにうねる。
 長兵衛さん、あれ、な。青の大将だ。いっぱい落葉がついておるな。俺らと一緒だ。
 大きな蛇がのたり、のたりと進んでいく。
 うむ、冬籠りに向かうのであろうな、と長兵衛はこたえた。
 

 <了・連作短編続く>
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