第3話 霜柱 - 地始凍(ちはじめてこおる)

文字数 406文字

 縄を結び終え、軒先に下げた。
 壮麗でございますね。長兵衛が言うと、お内儀(かみ)はからころと笑った。干し柿は菓子のうちに入らぬと、うちの人は言うんです。そのくせ誰よりおいしそうに食べますけれど。
 二人して剥いた皮を集め、ちらかった縁側を片付ける。
 楽隠居をいいことに、どこをほっつき歩いておりますやら。このところ、わたしが目をさますともう、おらぬのです。
 安兵衛は菓子屋の大旦那。暖簾(のれん)は息子が守っている。名物の豆大福をいただきながら、長兵衛は隠居とはいかなるものぞと思う。
 

 今朝はよう冷える。道中は晴れるであろう。
 おや、こんなはずれにどうして安兵衛さんが。
 その影が、つ、としゃがみ込む。どうなされたのか。長兵衛は歩を早める。
 おお、長兵衛。安兵衛は指をさす。
 ごらん、畑には、いいのが立つ。わしはこの霜柱のような菓子をこしらえてみたいのだ。
 朝の日に負けず劣らず、きりりとした眼であった。


 <了・連作短編続く>
 
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