第42話 駘蕩(たいとう) - 玄鳥至(つばめきたる)

文字数 407文字

 辻にて長兵衛は一旦立ち止まる。左へ行けばお社さん、右なら畑へ至る道、まっすぐ進めば峠。
 ほわりほわりとした気の流れを辿りながら歩いていると、峠へ向かう一本道から少しく脇へそれていく。なだらかな斜面にみつばつつじの群生するのを見つけ、傍に大の字になってみた。
 桜が白に思えるほど、濃い花びら。小さな三揃いの葉は新しい春の色をしている。その向こうに、すっかり霞の晴れてきりりと締まった青が透けて見える。切れ切れに雲がわたっていく。
 風が土の匂いをそよがせて。寝転んだまま、首を右へ傾けてみると、そこかしこで背伸びを始めた野草も、揺れながらかすかな音を立てておる。
 長兵衛は目を閉じてみる。
 (うぐいす)の鳴きも随分と達者になったものだ。
 別のさえずりが響き、速くて鋭い小さな風の流れが届けられる。玄鳥(つばめ)が渡ってきたようだ。
 しばし春のことどもに身を委ねて、ほわりほわりと。
 長兵衛はやがて寝息をたてはじめた。

<了・連作短編続く>
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