第46話 目刺 - 葭始生(あしはじめてしょうず)

文字数 437文字

 細く尖った芽が水面を穿つように、あちこち姿をあらわしている。
 葦の角(あしのつの)に出会うと、身が引き締まるような思いがいたす、と銀兵衛。天まで伸びよと聞こえてくるようで、己もかくありたいと心持ちを新たにするのだ。
 そうか。実のところ、(わし)は恐ろしいような気がする、と長兵衛はこたえる。
 恐ろしいとな。
 うむ、あまりに真っすぐで、尖って、触れたなら切られそうで。もちっと長うなって、風にしなり始めると安堵いたす。揺れて、倒れて、また起きて、それくらいの按配がよいのう。
 面白いことを考えるのだな。さて、そろそろ戻って飯にしようではないか。
 銀兵衛に言われ、長兵衛の腹の虫がぐう、と返事をする。葦の尖りぐあいが、目刺(めざし)のようだ、と感ずるともういけない。
 眼前、一面の目刺である。
 やや、儂には喜ばしいが、これでは鳥もねずみも、巣をかけることができまいて。

 長兵衛、なにがそんなに可笑しいのだ、ほんに面白い奴だな。
 
 かるがもの親子がすうう、と二人を追い越してゆく。

   

<了・連作短編続く>

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