第34話 蟇目鏑 - 蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)

文字数 410文字

 お社さんで蔵の掃除を手伝っておると、見慣れぬ矢が仕舞われてある。矢尻に大きな繭のようなものがついて、繭には小窓があけられている。はて、と長兵衛は首を傾げた。
 宮司さんが教えてくださる。蟇目鏑(ひきめかぶら)といいますもので。
 鏑矢(かぶらや)とは、初めて近くで見ました。蛙のような声で飛ぶのでござりましょうか。
 宮司さんははっはっ、と心底愉快そうに笑われた。いやいや見た目が似ておる、ということでしてな。穴が四つあるのを四目(しめ)と申しまして、まことに心があらわれるような()がしますぞ。いずれ聴きにおいでなさい。

 お天道様が幾筋にもわかれて降り注ぐような日である。もぞもぞ、と地面が動いたかと思えば、足元の穴から(ひきがえる)が顔をのぞかせたのであった。
 あの鏑矢に似ておるかのう。
 はて、と長兵衛が首を傾げると、穴の主と目が合うた。向きを変え、また穴の中へ戻るようだ。
 二度寝するつもりかのう。
 長兵衛は、一つ大きなあくびをすると歩き出した。

<了・連作短編続く>
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