第55話 青嵐 - 紅花栄 (べにばなさかう)

文字数 431文字

 皺のよった小さな手をひく。いつの間にか、銅十郎の方が手も背丈も大きゅうなってしもうた。
 おばあと二人、林のみちを行く。なるだけ平らなところ、と銅十郎は気を配るのであるが、なんのなんの。おばあの足は、しかと地に繋がっておる。
 銅十郎。金兵衛さんになにくれと世話になっておるのか。
 うん。銀兵衛さん、長兵衛さんときて、おれが第三の弟子だから。
 ほうか。お前、幾つになったのだったか。
 十二。
 ほうか。
 おばあは、おれくらいの頃、どうしていたのだ。
 わしか。そうな、紅花摘みをしておったな。

 大欅の(うろ)に近づいている。
 ここでよい、ふくろうさんがびっくりされる。
 目も薄いし、耳も遠いのに、おばあにはわかるようだ。
 いい風だな、銅十郎。
 欅の枝が、たおやかに確固としてさんざめく。
 いい青だな、銅十郎。

 おばあの横で、銅十郎は考えている。
 先だって、長兵衛さんに教わったことば。そうだ、
 青嵐(あおあらし)、って言うんだ。
 ほうか。
 葉が揺れ、木漏れ日が揺れる。


<了・連作短編続く>






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