デビルの運命
文字数 1,666文字
正直に言うと、ぼくはその瞬間、デビルがこのままひかれてしまえばいいと思っていた。
デビルなんてとんでもない奴だ。
ぼくから金をせびろうとしたし、ぼくをさんざん殴った。
そして今度は新しいターゲットから金をまきあげている。
とんでもない奴だ。
死んでしまえばいい。
ぼくはそう思っていた。
きっとその瞬間、ぼくの心に悪魔がやどっていたに違いない…
だけどそのとき、茶トラ先生はとっさに救急箱を歩道に置き、「ピピピピピピッ」とけたたましく笛を吹きながら、赤いランプの誘導灯を振り回しながら、左折しようとしていたトラックの前へ飛び出した。
トラックは急ブレーキを掛けた。
それから茶トラ先生はひらりと身をかわし、一目散にトラックから逃げるように走り、そして口から笛を離すとぼくの方を見て、そして大声で言った。
「イチロウ、何をしている! はやくデビル君を助けるんだ!」
その言葉にぼくははっと我に返り、それからソンブレロを飛ばし、横断歩道で寝ころんでいるデビルに駆け寄った。
そしてデビルの両手を引いたけれど、彼は重くてなかなか動かなかった。
それでぼくはデビルに大声で言った。
「田中君! 起きるんだ! トラックが来ているんだぞ!」
ぼくの声にはっと我に返り、そしてデビルは飛び起きた。
それでぼくは両手をつかみ、急いで歩道へ引き戻した。
そしてその直後、トラックはデビルが寝ていた、ちょうどその場所で止まった。
トラックの運転台から「バカヤロー」という大声が聞こえた。
それからデビルは驚いたようにぼくを見て、そしてこう言った。
「一体おれ、どうしてあんなところで寝ころんでいたんだ? さっぱり分からないぜ。あのままじゃおれ、きっとあのトラックにひかれていたぜ」
「そうだよね。本当に危なかったよね」
「う~ん。でもどうしてだろう? おれ…、だけどおれ、だけど…、だけど、だから、ええと、ええと、だからイチロウ!」
「何?」
「イチロウ、お前は…、お前は、おれの命の恩人だぜ! それから…、だから、ええと、だから本当に…、本当にありがとよ!」
ぼくはデビルを「田中君」と、本当の名前で呼んだことが、何だか自分でも不思議だった。
それから茶トラ先生も駆け寄り、みんなで良かった良かったと手を取り合った。
と、そのとき、「ぎゃ~!」いう叫び声がして、ぼくらは声の方を見た。
すると歩道で誰かがうつぶせに倒れていた。
そして近づいてよく見ると、何とお父さんだった。
そしてお父さんは、顔からだらだらと血を流していた。
どうやら茶トラ先生が歩道に置いていた救急箱につまずいて転び、しこたま顔を打ったようだった。
それで茶トラ先生は素早く救急箱を開け、手際よくお父さんの顔の手当てをした。
「やっぱりお前さんの親父さんは、ここでひどい目に遭う運命だったのだ。だからわしが救急箱を用意しておいて本当に良かった」
「だけどお父さんは、茶トラ先生が置いた救急箱につまずいたんだよ!」
「それもそうだな。だがもし救急箱が無かったら『絶望だぁ~』などと言いながら、デビル君といっしょに、横断歩道へ飛び出していたかも知れんぞ」
「そうかなぁ。まあ考え方は人それぞれだけどね」
それからしばらくは大騒ぎになったけれど、茶トラ先生はお父さんに包帯をし、顔は目だけになりミイラのようになった。
ミイラになっては恥ずかしくてカラオケへは行けないようで、お父さんたちのグループはその場で解散となり、おのおのタクシーをひろったりして帰った。
デビルもトラックにひかれそうになったことがよっぽどショックだったようで、しばらく呆然と立ち尽くしていて、もちろん、カラオケで美声を披露する気にもなれないみたいだった。
それでデビルたちのグループもその場で解散となった。
別れるとき、ぼくがデビルの肩をたたいてから、「よかったね。死ななくて…」と言うと、彼はぼくの顔を見てにこりと笑い、だけどそれからなんだか泣き笑いになり、そしてもう一度ぼくに「ほんとうにありがとうな」って言ってくれた。
デビルなんてとんでもない奴だ。
ぼくから金をせびろうとしたし、ぼくをさんざん殴った。
そして今度は新しいターゲットから金をまきあげている。
とんでもない奴だ。
死んでしまえばいい。
ぼくはそう思っていた。
きっとその瞬間、ぼくの心に悪魔がやどっていたに違いない…
だけどそのとき、茶トラ先生はとっさに救急箱を歩道に置き、「ピピピピピピッ」とけたたましく笛を吹きながら、赤いランプの誘導灯を振り回しながら、左折しようとしていたトラックの前へ飛び出した。
トラックは急ブレーキを掛けた。
それから茶トラ先生はひらりと身をかわし、一目散にトラックから逃げるように走り、そして口から笛を離すとぼくの方を見て、そして大声で言った。
「イチロウ、何をしている! はやくデビル君を助けるんだ!」
その言葉にぼくははっと我に返り、それからソンブレロを飛ばし、横断歩道で寝ころんでいるデビルに駆け寄った。
そしてデビルの両手を引いたけれど、彼は重くてなかなか動かなかった。
それでぼくはデビルに大声で言った。
「田中君! 起きるんだ! トラックが来ているんだぞ!」
ぼくの声にはっと我に返り、そしてデビルは飛び起きた。
それでぼくは両手をつかみ、急いで歩道へ引き戻した。
そしてその直後、トラックはデビルが寝ていた、ちょうどその場所で止まった。
トラックの運転台から「バカヤロー」という大声が聞こえた。
それからデビルは驚いたようにぼくを見て、そしてこう言った。
「一体おれ、どうしてあんなところで寝ころんでいたんだ? さっぱり分からないぜ。あのままじゃおれ、きっとあのトラックにひかれていたぜ」
「そうだよね。本当に危なかったよね」
「う~ん。でもどうしてだろう? おれ…、だけどおれ、だけど…、だけど、だから、ええと、ええと、だからイチロウ!」
「何?」
「イチロウ、お前は…、お前は、おれの命の恩人だぜ! それから…、だから、ええと、だから本当に…、本当にありがとよ!」
ぼくはデビルを「田中君」と、本当の名前で呼んだことが、何だか自分でも不思議だった。
それから茶トラ先生も駆け寄り、みんなで良かった良かったと手を取り合った。
と、そのとき、「ぎゃ~!」いう叫び声がして、ぼくらは声の方を見た。
すると歩道で誰かがうつぶせに倒れていた。
そして近づいてよく見ると、何とお父さんだった。
そしてお父さんは、顔からだらだらと血を流していた。
どうやら茶トラ先生が歩道に置いていた救急箱につまずいて転び、しこたま顔を打ったようだった。
それで茶トラ先生は素早く救急箱を開け、手際よくお父さんの顔の手当てをした。
「やっぱりお前さんの親父さんは、ここでひどい目に遭う運命だったのだ。だからわしが救急箱を用意しておいて本当に良かった」
「だけどお父さんは、茶トラ先生が置いた救急箱につまずいたんだよ!」
「それもそうだな。だがもし救急箱が無かったら『絶望だぁ~』などと言いながら、デビル君といっしょに、横断歩道へ飛び出していたかも知れんぞ」
「そうかなぁ。まあ考え方は人それぞれだけどね」
それからしばらくは大騒ぎになったけれど、茶トラ先生はお父さんに包帯をし、顔は目だけになりミイラのようになった。
ミイラになっては恥ずかしくてカラオケへは行けないようで、お父さんたちのグループはその場で解散となり、おのおのタクシーをひろったりして帰った。
デビルもトラックにひかれそうになったことがよっぽどショックだったようで、しばらく呆然と立ち尽くしていて、もちろん、カラオケで美声を披露する気にもなれないみたいだった。
それでデビルたちのグループもその場で解散となった。
別れるとき、ぼくがデビルの肩をたたいてから、「よかったね。死ななくて…」と言うと、彼はぼくの顔を見てにこりと笑い、だけどそれからなんだか泣き笑いになり、そしてもう一度ぼくに「ほんとうにありがとうな」って言ってくれた。
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