それから

文字数 992文字

 それからぼくは、茶トラ先生の実験室へ戻った。
 先生は空手着を着て、両手に試験管とフラスコを持ち、何かの実験をしていた。

「わしは物理学者だが、たまには化学の実験も悪くはない」
「ねえ茶トラ先生、デビルは『今日のところは許してやるが、この次は絶対に金を払ってもらうからな!』なんて言っていたよ」
「それは負けた奴定番の強がりだ。彼の前で右三戦立ちをすれば、もう手出しはせん」
「そうかなぁ…」
「そうだ。そうにきまっとる!」
「だといいけど」
「心配するな!」
「ところでさあ、ぼく、やったこともないのに左の正拳突きが出来たよ」
「それはお前さんの体が覚えておったのだろう。ゲシュタルト先生に教えてもらう予定なのだ。しかし正拳突きなどという言葉を、どこで覚えたのだ?」
「一応、空手の本一冊読んだから」
「三日間でか?」
「そうだよ。実質二日さ」
「そうか。それは熱心だな」
「へへへ」
「さてさて、それじゃタイムエイジマシンで十二歳に戻るぞ」
「ねえ、だけどそうすると、ぼくの体は空手の技を忘れちゃうんじゃないの?」
「だからゲシュタルト先生にそのうち教えてもらえばいい」
「でも、その前にデビルに出くわしたら?」
「だから右三戦立ちをするだけでよい。心配するな。それだけで奴は手出しはせんはずだ。そのことはさっき、わしはお前さんに、明確に言ったぞ!」
「明確に?」
「そうだ。心配するな」
「…分かったよ。明確にだね。じゃ、明確に心配しないことにするよ」
「それにしてもお前さん、彼をのさなかったのは偉かったぞ!」

 最後は茶トラ先生に、ぼくがデビルをのさなかったことをほめられて、ぼくは少しいい気分になり、それからまたタイムエイジマシンで一二歳に戻され、そして家へ帰った。


 それからいつもの夏休みが続いた。
 確かにそれ以来、デビルはぼくにつきまとわなくなった。

 だけどあいつは新しいターゲットを見付けたみたいで、その子にいろいろと因縁を付けては金をまきあげているようだった。

 ぼくは何とかその子を助けてあげたかったけれど、実際には、ぼくはまだ空手を習い始めていなかったし、本当はまだ全然強くはなかった。
 だから助けようと思っても、それは簡単なことではなかったんだ。

 だけど、そんなことより気がかりなこと。
 それは、お父さんの運命はどうなるのか…

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