ミッションの計画

文字数 1,427文字

 それから数日後、ぼくは茶トラ先生の実験室へ呼ばれ、それから今回の「ミッション」の打ち合わせを行った。
 例によって茶トラ先生がとうとうと計画をのべたのだ。

「あ~、今日ここに来てもらったのはほかでもない。あ~、今回のミッションでは…」
「ねえ茶トラ先生、そんなあらたまった言い方やめなよ! ぜんぜん似合わないし。いっそ普通にしゃべれば」
「わかったわかった。それじゃ普通に話そう」
「了解」
「あ~、それでだ。前にも言ったようにチャトラを撃ち落とすなどという手荒なことは一切するつもりはない」
「やっぱりそうなの。で、どうすんの?」
「そう先を急ぐでない」
「は~い」
「それで、今回の計画では、スワンボートでチャトラに接近し、ボートの先端でチャトラを押すのだ」
「それって、スワンボートの白鳥のくちばしのあたり?」
「いや、首の蝶ネクタイのあたりがよかろう。そしてそうすることで、チャトラの軌道を変え、50年後、再び地球に接近した時の、アポフィスへの衝突を回避する」
「押すのはいいけど、で、一体どうやって、チャトラまで行くの?」
「先日の実験で、お前さん一人でこいだ場合、スワンボートは人工衛星軌道に到達できた。これが何を意味するかというと、お前さん一人の脚力で毎秒8キロメートルを出せたということになる」
「それって人工衛星のスピードなの? たった1秒で、8キロメートルも?」
「そうだ。しかしチャトラは最接近時でも地球の重力圏外、すなわち地球から約2万キロ離れた宇宙空間にある。そしてわしの計算によると、チャトラまで到達するには、言い換えるとチャトラに追いつくには、毎秒21キロメートルの速度が必要なんだ」
「そんなに?」
「そうだ。そしてお前さん一人で毎秒8キロメートルの速度を出せたので、実は計算によると、毎秒21キロメートルを出すためには、お前さん7人分の脚力が必要だ」
「どうして? ぼく一人で毎秒8キロメートルだったら、7人で8×7で、ええと、毎秒56キロメートル出るじゃん」
「実は、スワンボートに搭載されたイオンエンジンの特性上、最高速度は足こぎパワーの平方根に比例する」
「ヘイホウコン?」
「ルートともいうが、中学で習う。まあそれはいいが、とにかくこの場合、2倍の速度を得るには4倍の脚力が必要なんだ。だから毎秒21キロメートルのチャトラに追いつくにはイチロウの7倍、つまり7人が必要なんだ」
「そうか、7人かぁ…」
「しかし残念ながら、このスワンボートは最大でも5人乗りだ。もちろん後ろの座席にペダルを増設して、あと3人分を用意した。それでわしと、イチロウと、それからデビル君と、そして、あ~、ゆりちゃんの4人がこぐとして、あとそれ以外の誰かということになるのだが、しかしあと一人は3人分の脚力をもった人物が必要ということになる。そうしないと7人分の脚力にならない。そしてそうしないと、決してチャトラに追いつけないという計算になってしまうのだ」
「つまり3人分の脚力を持った人物が必要ってこと?」
「そうだ。そこでお前さんたちの知り合いで、誰かそういう怪力を持った人はおらんか?」
「3人分の怪力? ええとええとええと…、そうだ! 同級生にヤス子ちゃんて子がいる。ゆりちゃんとも仲良しだし」
「そのヤス子ちゃんとは、一体どういう子かね」
「ええと、たしか最近、自転車のジュニアロードレースで優勝してたよ」
「それだ!」

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