そして…

文字数 2,001文字

 それからしばらくして、ぼくとデビルは茶トラ先生の話を聞きに行った。
 茶トラ先生は例の「茶虎医院」の開業準備に忙しそうだったけれど、仕事の手を休めて話をしてくれた。

「わしが『茶虎医院』などというものを開こうと考えたのは、あれから6カ月後の未来に、ゆりちゃんがわしの所へ検査に来るという想定だったからだが、すでにメーデルハーデル先生の病院で治療を受けておるから、本来ならもはやわしは医院など開く必要もなくなった。しかし因果関係上こうした方がよかろうと思っておるんだ。まあ、あのときから見た未来は、すでにかなり書き換えられてはおるが」
「そうなんだ。だけどちょっとややこしいね、その話。で、ゆりちゃんの容体はどうなの?」
「メーデルハーデル先生の話では、幸い病気の発見が奇跡的なほど早かったので、メーデルハーデル先生も完治、すなわち病気が完全に治るという手応えを持って、治療をやっておられるそうだ」
「そりゃよかった。よかったよね、田中君!」
「じゃぁ、やっぱりおれのカンが役に立ったのかな?」
「そりゃそうだよ!」
「あ~、ゆりちゃんの病気については、田中君のそのカンが大変役に立ったといえるな。メーデルハーデル先生も『奇跡的』と言うほどの、早い時期だったわけだから」
「そうなんだ。ところでおれ、白血病のこと、あれからネットなんかでいろいろ調べたんだ。そしたら骨髄移植っていう治療法があるんだな」
「田中君、それはよく調べたな。今は骨髄移植と同様の治療法で末梢血幹細胞移植とか臍帯血移植と、類似したいろいろな治療方法があって、だから万一、ゆりちゃんの病気が再発したとしても、そういう方法も残されているんだ」
「それってHLAっていう、白血球ってやつの型が合う必要があるんだよな」
「田中君、それもまた、よく調べたな」
「へへへ。だって、ゆりちゃんのことなんだぜ! それで、これはまたしてもおれのカンなんだけど、おれのHLAは、ゆりちゃんのHLAとぴったしのような気がするんだ」
「もしかして、そのカンも当たるかもね!」
「それじゃもしもそういう事態にでもなれば、田中君のHLAを調べるとしよう。そうしてみんなで力を合わせて、何が何でも、ゆりちゃんを救おうではないか!」
「それにいざとなれば、五十年後の未来へ行って、あの田中浩二先生から、未来の画期的な薬でももらってくるって手もあるしね」

 それからまたしばらくして、ゆりちゃんは無事退院し、元通り元気に学校へ通えるようになった。
 それで、ゆりちゃんが久しぶりに学校へ来たその日、なぜかデビルは突然勇気を出し、ゆりちゃんに謝るとか言い出したんだ。
 それはあの運動会の時の、「マイムマイム事件」のことだ。

 それで、デビルが恐々とゆりちゃんのところへ行き、ゆりちゃんにしどろもどろに、「あの…、あの…」と言っていたら、ゆりちゃんは笑いながら、デビルにこんなことを言った。

「田中君、ほんとうにありがとう。話はみんな茶トラ先生とイチロウ君から聞いたよ。それで、私の病気に最初に気付いてくれたのは、田中君だったのでしょう? それで私は、奇跡的なくらい早い段階で治療が受けられたそうだし。それからね。運動会の時は、本当は大地震が起こっていて、それをくい止めるために、タイムエイジマシンを使って、茶トラ先生や田中君やイチロウ君が奮闘していたんだっていう話も聞いたんだよ。それで、マイムマイムのとき、突然、田中君が私の前に現れてしまったのは、実は、タイムエイジマシンが誤作動をしてしまって、それで突然田中君が私の目の前に空間移動してしまったんだって、イチロウ君が話していたよ。それなのに私、田中君にあんなひどいこと…、痛かったでしょう。だから、あのときはほんとうにごめんなさい…」

 ゆりちゃんのその話を聞いて、とくにその「タイムエイジマシンの誤作動でデビルが空間移動…」という、ぼくの脳内のお花畑で勝手に考え出して、それをぼくがゆりちゃんの脳内に吹き込んだ、そのでたらめな作り話を聞いたとき、デビルはあの「マイムマイム事件」のときみたいに、一瞬にして固まって、だけそれからすぐに元にもどって、そしてぼくの方を見たんだ。

 それでぼくは、デビルに目配せした。
 そしたらデビルは、

「ああ、そそそそ、そうなんだ! あのときは本当に驚いちゃったよな。へへ。だけどゆりちゃんを驚かせて本当にごめんよ。それに、ゆりちゃんに叩かれたのだって、おれにとっちゃぁ、蚊にさされた程度ってもんよ。ぜんっぜん平気だぜ! それで…、ええと、ええと、ゆりちゃん! おれ、えっと、おれ、ゆりちゃんを…、ああ、えっと、えっとゆりちゃん! ええと、これからもずっと…、ずっと、おれと、仲良しでいてくれるよね!」

 ゆりちゃんの病気 完
 次回から新しいエピソードへ

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み