だけど茶トラ先生が空手を教えてくれるみたい♪

文字数 2,063文字

「ねえねえ茶トラ先生! あのね! 空手の練習は八月末からだってさ。これじゃ全然間に合わないじゃん。どうするつもりなの?」

 ぼくは速攻で茶トラ先生の実験室へ取って返し、もう一度先生に泣きついた。

 茶トラ先生は天体望遠鏡のレンズをティッシュペーパーとアルコールのようなもので掃除していたけれど、すぐにそれを片付けた。

「あ~、実はわしも若いころから、空手をやっておったのだ。だから当面わしが教えてやる」
「本当? だけどそれだったらどうして間に合いもしないのに、ぼくにゲシュタルト先生の所で空手入門の手続なんかをさせたの?」
「いいからいいから」
「もう! またいいからいいからなの?」
「さてさて、で、あ~、とりあえず突きに対する受け方だな。それだけ知っておれば、その辺の悪ガキのパンチなど、どうにでもなるわい。わっはっは」
「わっはっは?」

 と、突然、茶トラ先生がぼくに殴り掛かった。
 だけど先生のこぶしはぼくの顔の直前で止まった。

「ひえ~」
「寸止めだ」
「ねえ、茶トラ先生、もしかして、空手なんかやってたの?」
「だからさっきわしは、『あ~、実はわしも若いころから、空手をやっておったのだ』と、明確に言ったぞ!」
「あはは、そうだったね。いきなり殴りかかるから、ぼくの記憶が木端微塵にぶっ飛んじゃった」
「わしは若いころ、ゲシュタルト先生といっしょに山にこもって、さんざん空手の練習をやったもんだ」
「へぇ~、すげえや!」
「まあそんなことはどうでもよいが、とにかく、あ~、突きに対する受けを教えてやる」
「突きに対する受け?」
「そうだ。その前にまずは構えだな。そうだなあ、右三戦立ちにするか」
「何、それ?」
「両足の親指の内側が、肩幅になるようにして、右足を半歩前に出へ!」
「ええと、こう?」
「そうだ。そうして、両足を内側に絞り込む。そして肘を曲げ九十度。こぶしはアゴの高さ!」
「何だかややこしい」
「だからこうだ!」
「こう?」
「そうじゃない。こうだ!」
「こう?」
「そうだ。やれば出来るじゃないか。そしたら早速、内受け下段払いの練習だ」
「内受け、下段…」
「下段払いだ。これは読んで字のごとく、内受けと下段払いを同時に行う技だ」
「へぇ~、で、何それ?」
「いいからいいから」
「またいいからいいから?」
「つべこべ言わん! とにかくこれを覚えておれば、その辺の悪ガキのパンチなど、どうにでも…」
「あ、さっき先生それ、明確に言ったよ。その辺の悪ガキのパンチなど、どうにでもなるわい。わっはっはわっはっはだったよ」
「おおそうだったかな。まあいい。とにかく奴らのパンチなぞちょろいもんだ。わっはっは」
「またまたわっはっは?」
「えへん! で、あ~、まず一方の腕が内受けで、もう一方が下段払いになる」
「はぁ~」
「こら、お前さんはこれから空手を習うのだ。そんな気の抜けた返事はないだろう」
「は、はい!」
「よかろう。で、まず相手が顔面を突いてきたら内受けで、そして、腹を突いきたら下段払いで受けるのだ」
「何だか、すごく本格的だね」
「あたりまえだ。わしが何十年空手やっておると思っておるのだ?」
「そうだったね」
「それじゃ始めるぞ。まず、右三戦立ちで構える」
「はい!」
「最初の構えは両腕を立て、手の甲を相手に向けた状態にする」
「へぇ~」
「へぇ~じゃない。『はい!』だ」
「はい!」
「よかろう。で、肘は九十度」
「はい!」
「最初、こぶしはアゴの高さだ。そして下段払いだが、左腕を左足太ももの前三十センチぐらいのところへ一気に振り下ろす。やってみろ」
「こう?」
「そうじゃない。こうだ!」
「こう?」
「まあよかろう。それでだな、内受けはこぶしが顔の前を通るようにして腕を上、そして外側へと一気に振る」
「こう?」
「そうじゃない。こうだ!」
「こう?」
「まあよかろう。それでわしが号令をかけるから、下段払いになる方の腕が体の前を通り、内受けをする腕がさらにその前を通るようにするのだ」
「何かややこしい」
「とにかくやってみろ!」
「は、はい!」
「ほれイチ!」
「こう?」
「ちがう。こうだ!」
「こう?」
「そうだ。そしてこれを左右交互に動かす。ほれ、イチ、ニ、イチ、ニ…」
「ねえ、でもこんな練習で本当にデビルの奴をやっつけられるの?」
「いいからいいから」
「またいいからいいから?」
「つべこべ言わん。ほれイチ、ニ、イチ、ニ…」

 それからしばらくぼくは、茶トラ先生に空手の受けの特訓を受けた。
 ちなみに茶トラガウン姿の茶トラ先生の空手は結構かっこよかった。
 
 それから家へ帰ってもこの練習をやるように言われたので、ぼくは家でもがんばった。
 これでデビルの奴をやっつけられるのなら、お安い御用だ。

 だけど練習出来る時間は、今日と明日と、あさっての午前中だけだ。
 とにかくぼくはイチ、ニ、イチ、ニと、受けの練習ばかりをしたのだけど…
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