それから…

文字数 1,842文字

 その次の日。
 例の「作戦」以来久しぶりにぼくは茶トラ先生の家へ行った。

「物理学会ではいろいろあってなぁ…」
 珍しくなにも実験はしていなくて、茶トラ先生は実験室で、茶トラガウン姿でくつろいでいた。
 そしてぼくに、いろいろと土産話をしたいようだった。
 だけどぼくは速攻でそれをさえぎって、例のテロ支援国家の話をした。

「そいつはえらい事になるところだったなあ。テロ支援国家があの自動操縦装置を手に入れたら、それこそ誘導ミサイルなどで、とんでもないことをしておっただろう」
「そうだよね」
「なにせラジコン飛行機にも積める超小型だから、小さな誘導ミサイルが出来る。それを例えば…、小さな漁船にでも積んだな、夜中に日本の沿岸に接近し、海岸沿いにある原発を攻撃することも可能なんだぞ」
「げ!」
「今やハッカーなんかの仕業で、原発の敷地内のくわしい情報なんかも、世界中に流出しとる可能性も考えられる。すると小型誘導ミサイルで、原子炉でも配管でも、はたまた電源装置でも何でも、ピンポイント攻撃が可能かもしれん」
「ピンポイント攻撃?」
「重要な施設を狙い撃ちだ」
「狙い撃ちされたら?」
「それは大惨事にもなりかねん」
「え~、それってめちゃくちゃやばいよね」
「そうだ。もしかすると、やばいことになっただろうな」
「そうなんだ…」
「しかしわれわれは、その、大惨事にもなりかねない未来を書き変えたんだ」
「そうだよね。ぼくらがあの商談をぶち壊して、そしてそんな恐ろしい未来を書き変えたんだよね。もちろんお父さんの命も救ったし…、それって、すごいよね!」
「そうだ! そして、あ~、未来と言えばお前さんの未来だって、これから良いものに変えて行けばいいんだ」
「タイムエイジマシンをじゃんじゃん使って?」
「それがだな。実は、タイムエイジマシンは完全に壊れてしまったんだ。もう絶望的なくらいに…」
「何だって? でも、あっという間に直せるんでしょう」
「お前さんの自転車とはわけがちがう」
「そうなんだ…」
「多分、運命を変えるときのエネルギーで、タイム回路が完全に破壊されたと思うんだ」
「運命を変えるエネルギー?」
「まあしかし、実はわしはそれでよいと思っておる。お前さんの未来は、お前さん自身の手で変えればよい」
「ぼくの力で? …だけど、でも、うん。そうだよね。ぼく、がんばる!」
「ああそうだ。昨日、ゲシュタルト先生がヒマラヤから帰ったそうだ」
「ほんとう?」
「だから、今日から空手の練習が始まるぞ。運命を書き変えろ。早速行ってくるがよい。それと、勉強もだな」
「うん!」
 
 それからぼくは、ゲシュタルト先生の所で空手を習い始めた。
 そこにずっと通い、とても強くなり、丈夫な体にもなった。
 もちろん空手で人にケガをさせるようなことは絶対にやらないよ。
 ゲシュタルト先生にも、いつもそう言われていたし。

 それから、実はぼく、あれ以来デビルと親友になった。
 といっても、デビルは相変わらず悪ガキだったし、ぼくが悪ガキになったわけでもない。
 だけど、仲よく話をするようになったんだ。
 ぼくはデビルに時々勉強なんかを教えてあげたし、デビルはぼくにケンカの方法を教えてくれた。
 それと、デビルはぼくと仲よくなって以来、人から金をまきあげるようなことは、絶対にやらなくなった。
 ぼくが「絶対にやるな!」と言い続けたこともあるけれど。
 それと、タバコもやめさせたんだ。
 ぼくはデビルに、
「けむたいから、少なくともぼくといっしょにいるときは、タバコを吸ってくれるな!」
と言い続けて、それからしばらくしたある日、デビルが突然、
「タバコって、体に悪いよな」
って言って、それから、
「おれもイチロウみたいに、ケンカが強くなりたいから、タバコやめる!」
とか言い出して、それからぴたりとやめたんだ。

 ぼくはタバコを吸わないからじゃなくて、ゲシュタルト先生に空手を習って強くなる「予定」だったんだけどね。
 そして今、ぼくはタコ公園での決戦の日に、デビル、いや、田中君を空手でのしたりしなくて良かったと思っている。
 あのとき茶トラ先生が「デビルをのしてはだめだ」と言っていた意味が、やっと分かったような気がするんだ。
 それともちろんあの夜、デビルがトラックでひかれたりなんかしなくて、本当に良かった。
 ぼくと田中君は、親友になれたのだから。


 タイムエイジマシン 完
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