お父さんが帰ってきた
文字数 2,246文字
それからいよいよ、お父さんの運命の八月二十三日がやって来た。
以前、茶トラ先生と一緒に、タイムエイジマシンでその日に移動したぼくは、お父さんの替え玉になり、お父さんが操縦するはずだった自動操縦装置付きのラジコン飛行機を、三機とも木端微塵にしていたのだ。
いやいや、一機は山の向こうへ順調に飛んで行き、多分山の彼方で行方不明だ。
しかもそれをお父さんが「やった」ということになっている。
それで、その日の大切な商談はぶち壊しとなる「予定」だったのだ。
あの時お父さんは「お散歩」を口笛で演奏しながら駐機場へ向かい、二機の残骸を見て、何と思ったのだろう?
しかも、自分ではやった記憶もないのに、会社の偉い人にこっぴどく怒られたはずだ。
夕方、お父さんは一体どんな顔をして帰って来るのだろう?
そんなことを考えていたらさっさと夕方になり、そしてお父さんが帰ってきた。
「お散歩」を口笛で演奏してはいなかった。
きっとものすごく落ち込んでいるはずだと思ていたら、案の定、
「ああぁ~~~もう~~~最悪だぁ~~~もう~~~カンペキに絶望だぁ~~~~!」
お父さんは玄関へ入るなり、そう吠えた。
「あらら、今夜は商談成功のお祝いで、街でパーティーじゃなかったのですか?」
玄関で、お母さんのすっとんきょうな、そしてお父さんの神経を逆なでするような声。
それからお父さんは、のっしのっしとリビングまで歩き、早速大声でしゃべりはじめた。
ぼくも大急ぎでお父さんの後を追った。
「どうもこうもない! もう~~~~、三機全滅だ! いやいや、一機は行方不明だ」
「じゃぁパーティーはないの?」
「あたりまえだのクラッカー!」
「何ですかそんな古~いギャグ。じゃぁ、今から買い物に行かなくちゃ。今夜はお茶漬けの予定だったんですよ」
「もういい! 何も食いたくない! もう絶望だ!」
そう言うとお父さんはソファーにごろんと横になり、絶望的な顔をしてムーミンのぬいぐるみを抱き、そのままふて寝を始めた。
でもぼくは絶望じゃない!
作戦成功だ。
だから例のお通夜は回避された♪
やった!
そう思っていたら、暗くなった頃に電話が鳴った。
お父さんはむくりと起きて電話に出た。
「え? 今からかい? で、残念会? でもおれは今、全然そんな気分じゃないよ…」
ぼくは速攻で和室へ行き、電話の子機を取った。
盗み聞きはお父さんに悪いと思ったけれど、「残念会」は聞き捨てならない。
声の主はどうやらお通夜の時、茶トラ先生が根掘り葉掘り、いろいろと話を聞き出した人だったようだ。
何だかお父さんとは仲がいい人みたい。
電話の子機から、お父さんたちの会話が聞こえた。
「しかしお前さん、どうしてあんな無茶苦茶な操縦をしたんだい?」
「それが、全然記憶がないんだ」
「何だって?」
「トイレへ行ってそこでくらくらとめまいがして、そして何者かに後ろから羽交い絞めにされたような感覚が起こり…」
「そんなバカなことあってたまるか。あの時間、トイレにはお前しかいなかったはずだ。スタッフもみんな駐機場にいたんだぞ。お化けにでも羽交い絞めにされたってか?」
「お化け? そんな怖いこと言うな! お化けは怖いからいいよ。で、気が付いたら、おれそっくりの奴が、おれに送信機とサングラスを手渡して、それから駐機場へ行けと言ったんだ。で、行ってみたら、あのありさまさ」
「お前そっくりの奴? じゃ、お前自身がお前自身を羽交い絞めにってか? そんなバカなことがあってたまるか!」
「いや、羽交い絞めじゃなくて、おれそっくりのやつがおれに送信機を渡したんだ。本当なんだ!」
「わけのわからんことを! お前、頭がイカれたのか。そうだ! そいつはひょっとして、いわゆるドッペルゲンガー現象じゃないのか?」
「ドッペルゲンガー現象?」
「そうだ。ある日突然自分そっくりの奴が見えて、それは死の前触れなんだ!」
「何だって? おまえまた怖いこというなぁ」
「いやいや、実はおれも良く知らない」
「何だ、いいかげんだな」
「まあいい。すんだことは仕方がない。そんなことはトイレの水にでも流せ。で、とにかく今夜は残念会をやろうぜ! 新しい計画の作戦会議でもいい。とにかく前向きに考えな。それに開発のスタッフもいっぱい来るぞ!」
「いっぱい来るのか。そうかぁ。どうしよっかなぁ…」
「来いよ!」
「う~ん…」
「とにかくお前さんが来んと話にならん。一番街のイカ天という中華料理屋で、八時半集合だ」
「そうかぁ。それじゃ、みんなが来るというのなら…」
「来いったら来いよ!」
「じゃ、行こうっかな~」
「そうしなよ。絶望的な顔をしてムーミンのぬいぐるみを抱いてふて寝は体に良くないぞ」
「よくおれの行動が分かったな」
「ずぼしだろう。いつものことじゃないか。いつだったか、ジェット機をテスト飛行で落としたときもそうだっただろう。あんときはすごい迫力だったよな。まあいい。ともあれこういうときは、パ~っと飲んで…」
「ははは。それもそうだな。ラジコン飛行機に墜落は付き物ってか。じゃあ…」
「よし、決まりだ。それで二次会はカラオケのオーラムあたりはどうだ?」
「悪くないね。わかったよ。一次会はイカ天で、八時半だな。了解!」
ガチャン。
え~、残念会だなんて、冗談じゃないよ!
以前、茶トラ先生と一緒に、タイムエイジマシンでその日に移動したぼくは、お父さんの替え玉になり、お父さんが操縦するはずだった自動操縦装置付きのラジコン飛行機を、三機とも木端微塵にしていたのだ。
いやいや、一機は山の向こうへ順調に飛んで行き、多分山の彼方で行方不明だ。
しかもそれをお父さんが「やった」ということになっている。
それで、その日の大切な商談はぶち壊しとなる「予定」だったのだ。
あの時お父さんは「お散歩」を口笛で演奏しながら駐機場へ向かい、二機の残骸を見て、何と思ったのだろう?
しかも、自分ではやった記憶もないのに、会社の偉い人にこっぴどく怒られたはずだ。
夕方、お父さんは一体どんな顔をして帰って来るのだろう?
そんなことを考えていたらさっさと夕方になり、そしてお父さんが帰ってきた。
「お散歩」を口笛で演奏してはいなかった。
きっとものすごく落ち込んでいるはずだと思ていたら、案の定、
「ああぁ~~~もう~~~最悪だぁ~~~もう~~~カンペキに絶望だぁ~~~~!」
お父さんは玄関へ入るなり、そう吠えた。
「あらら、今夜は商談成功のお祝いで、街でパーティーじゃなかったのですか?」
玄関で、お母さんのすっとんきょうな、そしてお父さんの神経を逆なでするような声。
それからお父さんは、のっしのっしとリビングまで歩き、早速大声でしゃべりはじめた。
ぼくも大急ぎでお父さんの後を追った。
「どうもこうもない! もう~~~~、三機全滅だ! いやいや、一機は行方不明だ」
「じゃぁパーティーはないの?」
「あたりまえだのクラッカー!」
「何ですかそんな古~いギャグ。じゃぁ、今から買い物に行かなくちゃ。今夜はお茶漬けの予定だったんですよ」
「もういい! 何も食いたくない! もう絶望だ!」
そう言うとお父さんはソファーにごろんと横になり、絶望的な顔をしてムーミンのぬいぐるみを抱き、そのままふて寝を始めた。
でもぼくは絶望じゃない!
作戦成功だ。
だから例のお通夜は回避された♪
やった!
そう思っていたら、暗くなった頃に電話が鳴った。
お父さんはむくりと起きて電話に出た。
「え? 今からかい? で、残念会? でもおれは今、全然そんな気分じゃないよ…」
ぼくは速攻で和室へ行き、電話の子機を取った。
盗み聞きはお父さんに悪いと思ったけれど、「残念会」は聞き捨てならない。
声の主はどうやらお通夜の時、茶トラ先生が根掘り葉掘り、いろいろと話を聞き出した人だったようだ。
何だかお父さんとは仲がいい人みたい。
電話の子機から、お父さんたちの会話が聞こえた。
「しかしお前さん、どうしてあんな無茶苦茶な操縦をしたんだい?」
「それが、全然記憶がないんだ」
「何だって?」
「トイレへ行ってそこでくらくらとめまいがして、そして何者かに後ろから羽交い絞めにされたような感覚が起こり…」
「そんなバカなことあってたまるか。あの時間、トイレにはお前しかいなかったはずだ。スタッフもみんな駐機場にいたんだぞ。お化けにでも羽交い絞めにされたってか?」
「お化け? そんな怖いこと言うな! お化けは怖いからいいよ。で、気が付いたら、おれそっくりの奴が、おれに送信機とサングラスを手渡して、それから駐機場へ行けと言ったんだ。で、行ってみたら、あのありさまさ」
「お前そっくりの奴? じゃ、お前自身がお前自身を羽交い絞めにってか? そんなバカなことがあってたまるか!」
「いや、羽交い絞めじゃなくて、おれそっくりのやつがおれに送信機を渡したんだ。本当なんだ!」
「わけのわからんことを! お前、頭がイカれたのか。そうだ! そいつはひょっとして、いわゆるドッペルゲンガー現象じゃないのか?」
「ドッペルゲンガー現象?」
「そうだ。ある日突然自分そっくりの奴が見えて、それは死の前触れなんだ!」
「何だって? おまえまた怖いこというなぁ」
「いやいや、実はおれも良く知らない」
「何だ、いいかげんだな」
「まあいい。すんだことは仕方がない。そんなことはトイレの水にでも流せ。で、とにかく今夜は残念会をやろうぜ! 新しい計画の作戦会議でもいい。とにかく前向きに考えな。それに開発のスタッフもいっぱい来るぞ!」
「いっぱい来るのか。そうかぁ。どうしよっかなぁ…」
「来いよ!」
「う~ん…」
「とにかくお前さんが来んと話にならん。一番街のイカ天という中華料理屋で、八時半集合だ」
「そうかぁ。それじゃ、みんなが来るというのなら…」
「来いったら来いよ!」
「じゃ、行こうっかな~」
「そうしなよ。絶望的な顔をしてムーミンのぬいぐるみを抱いてふて寝は体に良くないぞ」
「よくおれの行動が分かったな」
「ずぼしだろう。いつものことじゃないか。いつだったか、ジェット機をテスト飛行で落としたときもそうだっただろう。あんときはすごい迫力だったよな。まあいい。ともあれこういうときは、パ~っと飲んで…」
「ははは。それもそうだな。ラジコン飛行機に墜落は付き物ってか。じゃあ…」
「よし、決まりだ。それで二次会はカラオケのオーラムあたりはどうだ?」
「悪くないね。わかったよ。一次会はイカ天で、八時半だな。了解!」
ガチャン。
え~、残念会だなんて、冗談じゃないよ!
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