50年後へ出発したのだけど…
文字数 2,300文字
その日の夕方、ぼくは再び茶トラ先生の家へ行った。
前の日と同じく、ズボンとカッターシャツという結構普通の格好の茶トラ先生は、珍しく何も実験をしていなくて、その代りに、何故かたくさんのお札を数えていた。
「五十年後のタクシー代がいくら掛かるか、わしには想像もつかん。大学病院まで何十万も掛かるかもしれんからな」
そんな話をしてから、さっそくぼくらは、タイムエイジマシンで五十年後へ行くことにした。
それで、タイムエイジマシンを五十年後の約束の日時に設定し、ぼくらは中に入り、先生はリモコンのスイッチを押した。
すると突然、バチンというけたたましい音がして、マシンが止まった。
それでぼくらがマシンの外に出てみると、何だか焦げ臭かった。
そしてマシンの裏側から、もわ~っと煙が出ていた。
「大変だ。タイム回路がショートしたのかもしれん。イチロウ、出番だ。修理してくれ」
「だって茶トラ先生が作った機械だろう」
「しかし修理したのはお前さんだ」
「分かったよ」
それからぼくは、またしても機械の裏側へ回り、そしてよく見てみると、やっぱりヒューズが飛んでいた。
ぼくがそのことを言うと、茶トラ先生は30アンペアのヒューズを持ってきた。
「だけど、ぼくらは五十年後の未来へ行くのだから、50アンペアにしない? 余裕を持っといた方が安心だよ」
「お前さんがそういうのなら、そうすることにしよう」
今度はなぜか茶トラ先生はあまりぼくに抵抗せず、素直にぼくの言うことを聞いてくれ、それでぼくが50アンペアのヒューズに付け替えると、タイムエイジマシンは復活し、それでぼくらはあらためて五十年後へ出発となった。
再びタイムエイジマシンを、五十年後の約束の日時に設定し、ぼくらは中へ入り、そしてリモコンのスイッチを押した。
すると今度はバチンという音もせず、マシンは一見、順調に動き始めたかに見えた。
昼と夜がめまぐるしく変わり、それが速くなり、やがて季節がめまぐるしく変わり始めたんだ。
だけど何年か時代を下った頃、ふとぼくらが鏡の両側のランプを見ると、どういうわけか赤と青の両方のランプが点滅していた。
そして鏡を見てみると、ぼくらも一緒にどんどん年を取っているのが分かった。
それを見た茶トラ先生は、真っ青な顔をして、こんなことを言った。
「大変だ。タイムマシンと、エイジマシンが連動しとる。やっぱりマシンは異常だったんだ!」
「それってどういうこと?」
どういうことかというと、タイムマシンとエイジマシンが連動、つまり両方同時に作動し、時代が下っていくと同時に、ぼくらも一緒に歳を取りはじめたんだ。
「連動するということはつまり、五十年後に着いたとき、わしらは多分五十歳、歳をとるということだ」
「というと、茶トラ先生は?」
「わしはええと、百十五歳になる」
「え~!」
「とにかく緊急停止だ!」
そう言うと茶トラ先生は緊急停止ボタンを押した。
だけど機械は止まらなかった。
「だめだ。止まらん。緊急停止ボタンもイカれとる」
「何だって?」
「きっと五十年後まで止まらんだろう」
「そんなぁ」
「そうだ。イチロウ、お前さんはこれからどんどん大きくなって、大人のサイズになってしまう。だから早い事その子供の服を脱いで、茶トラパンツと茶トラガウンに着替えろ!」
「パンツとガウン?」
「こういうものを置いておくと便利だろうと思って用意しておいたのだが、まさかこういうことで役に立つとは…」
そういうと茶トラ先生は、マシンの床にある小さなかごを指さした。
それでぼくは急いで折りたたんであったガウンとパンツをかごから取り出すと、それに着替えた。
そして着替え終わった頃には、ぼくはすっかり大人のサイズになっていた。
とにかく、タイムエイジマシンの暴走で、ぼくは大人の姿になる。
そして、茶トラ先生は百十五歳になってしまう…
そんな思いの中で、それからぼくは偶然あることを思いつき、それで茶トラ先生にこんな提案をしてみた。
「ねえ、今のうちにマシンから脱出するってのは?」
だけど茶トラ先生はこう言った。
「それはやめたほうがよい。訳の分からん時代に置き去りにされかねん」
「というと?」
「その時代から二度と戻れんかもしれんのだ。とにかく、このまま五十年後へ行った方がよい。亜里沙ちゃんとの約束もある」
「約束?」
「そうだ」
「…そうだよね。約束があるんだよね。だけど茶トラ先生、百十五歳だよ。いいの?」
「それよりも、亜里沙ちゃんとの約束がの方が大切だ」
「だけど…」
「わしは構わん」
「でも…」
「いいからいいから」
「でも…」
「いいからいいからと言っておるだろう!」
「…うん。分かったよ」
ぼくはそう言いながら、でも茶トラ先生のことがとても心配だった。
茶トラ先生が百十五歳になったら…
「ところでイチロウ、お前さんはタイムエイジマシンの動かし方は分かっておるだろう」
「大体ね。茶トラ先生が操作するの、何度も見てるし」
ぼくがそう言うと、茶トラ先生は少し安心したような表情になったけれど、だけどそれから、その顔はどんどん老けていったんだ。
髪の毛がどんどん抜け、腰が曲がり、顔はしわだらけになっていったんだ。
そして機械が三十年ほど進んだとき、茶トラ先生はものすごいおじいさんになり、それからぼくの顔を見て、
「イ、イチロウ、デビル君のお母さんの薬を…」
そこまで言うと、茶トラ先生は床に崩れ落ち、そしてあっという間に骨と灰になった。
茶トラ先生が着ていた服は、そのまま床に残った。
ぼくは凍りつくように、その様子を見ていた。
それからしばらくして、タイムエイジマシンは止まった。
前の日と同じく、ズボンとカッターシャツという結構普通の格好の茶トラ先生は、珍しく何も実験をしていなくて、その代りに、何故かたくさんのお札を数えていた。
「五十年後のタクシー代がいくら掛かるか、わしには想像もつかん。大学病院まで何十万も掛かるかもしれんからな」
そんな話をしてから、さっそくぼくらは、タイムエイジマシンで五十年後へ行くことにした。
それで、タイムエイジマシンを五十年後の約束の日時に設定し、ぼくらは中に入り、先生はリモコンのスイッチを押した。
すると突然、バチンというけたたましい音がして、マシンが止まった。
それでぼくらがマシンの外に出てみると、何だか焦げ臭かった。
そしてマシンの裏側から、もわ~っと煙が出ていた。
「大変だ。タイム回路がショートしたのかもしれん。イチロウ、出番だ。修理してくれ」
「だって茶トラ先生が作った機械だろう」
「しかし修理したのはお前さんだ」
「分かったよ」
それからぼくは、またしても機械の裏側へ回り、そしてよく見てみると、やっぱりヒューズが飛んでいた。
ぼくがそのことを言うと、茶トラ先生は30アンペアのヒューズを持ってきた。
「だけど、ぼくらは五十年後の未来へ行くのだから、50アンペアにしない? 余裕を持っといた方が安心だよ」
「お前さんがそういうのなら、そうすることにしよう」
今度はなぜか茶トラ先生はあまりぼくに抵抗せず、素直にぼくの言うことを聞いてくれ、それでぼくが50アンペアのヒューズに付け替えると、タイムエイジマシンは復活し、それでぼくらはあらためて五十年後へ出発となった。
再びタイムエイジマシンを、五十年後の約束の日時に設定し、ぼくらは中へ入り、そしてリモコンのスイッチを押した。
すると今度はバチンという音もせず、マシンは一見、順調に動き始めたかに見えた。
昼と夜がめまぐるしく変わり、それが速くなり、やがて季節がめまぐるしく変わり始めたんだ。
だけど何年か時代を下った頃、ふとぼくらが鏡の両側のランプを見ると、どういうわけか赤と青の両方のランプが点滅していた。
そして鏡を見てみると、ぼくらも一緒にどんどん年を取っているのが分かった。
それを見た茶トラ先生は、真っ青な顔をして、こんなことを言った。
「大変だ。タイムマシンと、エイジマシンが連動しとる。やっぱりマシンは異常だったんだ!」
「それってどういうこと?」
どういうことかというと、タイムマシンとエイジマシンが連動、つまり両方同時に作動し、時代が下っていくと同時に、ぼくらも一緒に歳を取りはじめたんだ。
「連動するということはつまり、五十年後に着いたとき、わしらは多分五十歳、歳をとるということだ」
「というと、茶トラ先生は?」
「わしはええと、百十五歳になる」
「え~!」
「とにかく緊急停止だ!」
そう言うと茶トラ先生は緊急停止ボタンを押した。
だけど機械は止まらなかった。
「だめだ。止まらん。緊急停止ボタンもイカれとる」
「何だって?」
「きっと五十年後まで止まらんだろう」
「そんなぁ」
「そうだ。イチロウ、お前さんはこれからどんどん大きくなって、大人のサイズになってしまう。だから早い事その子供の服を脱いで、茶トラパンツと茶トラガウンに着替えろ!」
「パンツとガウン?」
「こういうものを置いておくと便利だろうと思って用意しておいたのだが、まさかこういうことで役に立つとは…」
そういうと茶トラ先生は、マシンの床にある小さなかごを指さした。
それでぼくは急いで折りたたんであったガウンとパンツをかごから取り出すと、それに着替えた。
そして着替え終わった頃には、ぼくはすっかり大人のサイズになっていた。
とにかく、タイムエイジマシンの暴走で、ぼくは大人の姿になる。
そして、茶トラ先生は百十五歳になってしまう…
そんな思いの中で、それからぼくは偶然あることを思いつき、それで茶トラ先生にこんな提案をしてみた。
「ねえ、今のうちにマシンから脱出するってのは?」
だけど茶トラ先生はこう言った。
「それはやめたほうがよい。訳の分からん時代に置き去りにされかねん」
「というと?」
「その時代から二度と戻れんかもしれんのだ。とにかく、このまま五十年後へ行った方がよい。亜里沙ちゃんとの約束もある」
「約束?」
「そうだ」
「…そうだよね。約束があるんだよね。だけど茶トラ先生、百十五歳だよ。いいの?」
「それよりも、亜里沙ちゃんとの約束がの方が大切だ」
「だけど…」
「わしは構わん」
「でも…」
「いいからいいから」
「でも…」
「いいからいいからと言っておるだろう!」
「…うん。分かったよ」
ぼくはそう言いながら、でも茶トラ先生のことがとても心配だった。
茶トラ先生が百十五歳になったら…
「ところでイチロウ、お前さんはタイムエイジマシンの動かし方は分かっておるだろう」
「大体ね。茶トラ先生が操作するの、何度も見てるし」
ぼくがそう言うと、茶トラ先生は少し安心したような表情になったけれど、だけどそれから、その顔はどんどん老けていったんだ。
髪の毛がどんどん抜け、腰が曲がり、顔はしわだらけになっていったんだ。
そして機械が三十年ほど進んだとき、茶トラ先生はものすごいおじいさんになり、それからぼくの顔を見て、
「イ、イチロウ、デビル君のお母さんの薬を…」
そこまで言うと、茶トラ先生は床に崩れ落ち、そしてあっという間に骨と灰になった。
茶トラ先生が着ていた服は、そのまま床に残った。
ぼくは凍りつくように、その様子を見ていた。
それからしばらくして、タイムエイジマシンは止まった。
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