ここは?

文字数 2,278文字

 とにかくそこには、テレビや冷蔵庫や洗濯機やエアコンや自動販売機や、そういういろんなものが雑然と置かれて、というか捨ててあるような場所だったんだ。

 そしてぼくたちがはい出したタイムエイジマシンを見てみると、それはもはやぼろぼろの「証明写真」だったんだ。
 とにかくそれが、ごろんと捨ててあるような感じ。

「もしかしておれたち、とんでもないところへ来てしまったんじゃねえのか?」
 その様子を見たデビルは心配そうに言った。

「そうだよね。もしかしてここは廃棄物処理場とかかな? いろんな粗大ゴミが置いてあるし、で、ぼくんちでお母さんが、大きな粗大ごみなんかは月に一度だったか、粗大ごみに出して、それでごみ回収のトラックが来て…」
「たしかにエアコンとかテレビとか冷蔵庫とか自動販売機とか、ここにはいろんなものが捨ててあるよな。つまりここはそういう場所なのか?」
 だけどそんなことよりなにより、そのときぼくは、ある重大なことに気付いたんだ。

 考えてみるとぼくは、タイムエイジマシンに「一年前」って、リモコンで入力したけれど、もしかしてその「一年前」は、まだタイムエイジマシンは完成してないはずだ!

 茶トラ先生が「凄い機械を発明した」とか言ってぼくを呼び出しだのは、あの夏休み前の日。
 そして茶トラ先生は、たしか証明写真の機械をベースにタイムエイジマシンを作ったとか言っていた。
 だからもしかして、茶トラ先生は古い証明写真の機械をここで拾って、そして実験室へ運び、タイムエイジマシンを作った…

「つまりおれたち、タイムエイジマシンが完成する前の時代へ来ちまったってことか?」
「う~ん。おそらくね。で、もしそうだとすると、一体ぼくたち、どうやったら元の時代へ戻れるんだろう? それに、ここにあるのはもはやタイムエイジマシンじゃないよ。ただのゴミ同然の証明写真…」
「え~、じゃ、おれたちもどれるのか?」

 とにかくこれはえらいことになった。
 どうしよう…

「だけどここにいてもしょうがないよ。とにかく歩こうよ」
 そう言って、ぼくらは歩き始めた。例のテクシーだ。
 その廃棄物処理場は山の中を切り開いたような場所にあり、そこにあるたくさんのゴミの間を、ぼくらはつまずいてころびそうになりながら、必死に通り抜け、すると山道らしいところがあったので、そこを二人でてくてくとテクシーで歩いて、それから坂をずっとずっと下ると遠くに街が見え始めた。

 それから歩いて街へ近づいて、するとぼくらがよく行く本屋さんとか、スーパーとかコンビニとか、そしてぼくらの小学校も遠くに見えたので、ぼくらはとても安心した。
 少なくともぼくらは「見知らぬ世界」とか「未知の惑星」とかへ放り出されたわけではなさそうだったんだ。

 それからぼくらは、よく知った自分たちの住んでいる街並みをてくてくと歩いて、ぼくの家の近くのウサギの公園までたどり着いた。

 そしたら同級生が何人か、すべり台で遊んでいるのが見えた。
 だけど1年前なら彼らは5年生だけど、5年生の頃の同級生もいたので、ぼくらは彼らに近づいて声をかけた。
 だけど彼らは、ぼくらは近づいても、それどころか声をかけても、全くぼくらを無視するようにして、そのまますべり台で遊んでいた。

「おいおめーらシカトすんなよ。おれの声が聞こえねーのか!」
 それでデビルが怒って大声をあげたけれど、やっぱり彼らは、デビルもぼくも無視しつづけ、そのまますべり台で遊び続けたんだ。

 それでデビルがもう激怒して、ダッシュして彼らをつかまえようとしたけれど、デビルは近くにあった石に思い切りつまづいて転んでしまった。

 だけどそれからまた起き上がり、また近づこうとしたけれど、すると彼らはいきなりすべり台で遊ぶのをやめ、少し離れたところにある、うんていの方へと歩き出した。
 その様子を見たデビルは、あっけにとられて立ちつくした。

 そしてそんなデビルの様子を見て、ぼくは再び、以前茶トラ先生が実験だと言って、数日前の自分をバットで殴り殺そうとした話を思い出した。
 
 茶トラ先生は、
〈だが置いてあったはずのバットがなかなか見つからなかったり、わしに近づこうとしても、何かにつまずいてころびそうになったりして、とにかく、どうしてもうまくいかんかったんだ…〉
 
 それでぼくは考えた。
 だから過去は、要するに「書込み禁止」?
 それでぼくは言った。

「田中君、もしかして、何をやっても無駄だよ。ここでは、この一年前の世界では、ぼくらは何も出来ないんだ。それに、ここには何の影響も与えてはいけないって、さっき茶トラ先生言ったじゃん」

 それはわかった。
 だけどそれじゃ一体、ぼくらどうすればいいの?

 だからといってタイムエイジマシンで戻ろうにも、タイムエイジマシンはこの世界では、廃棄物処理場にすててある、スクラップ寸前の「証明写真」にすぎない。
 もうどうしようもない。
 このままぼくらは永久にシカトされたまま、この世界にいるしかないのか?
 これはえらいことになったぞ!

「とにかく茶トラ先生の家へ行ってみようよ。ここからそう遠くないし」
「茶トラ先生がおれらをシカトしなければな。それに、そもそも茶トラ先生の家が近くにあればだけどな」
「そう悲観的になるなよ。茶トラ先生の家はずっと前からあそこに建っているし、ぼくらを無視してはいるけど、同級生たちだっているし、それに、このウサギの公園だってあるし。だからぼくらのいた世界と、だいたい同じ世界のはずなんだ。とにかくダメもとでいいから、茶トラ先生の家へ行ってみようよ」
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