ある日、妹が…

文字数 1,301文字

 それからしばらく過ぎたある日。
 たまたまぼくはとてもひまだったので、茶トラ先生の実験室で、先生のバカ話やら自慢話やらの相手をしていた。

「…そうなんだ。それでわしは、そのとき大学の大バカタレどもに言ってやったんだ」
「大学の大バカタレども? で、何て言ってやったの? その大バカタレどもに」
「お前ら偉そうに、ドヤ顔で必死こいてホワイトボードに、なにやらややこしい計算のまねごとなどをやっておるが、いったい物理はどうなんだ? お前ら本当に物理の本質が分かっておるのか? とな」
「ブツリの本質が分かっておるのか? とな、と?」
「そうだ。物理学は、自然の法則の根本的本質なんだ」
「ブツリはコンポンテキ本質、へぇ~」
「そもそも物理、つまり自然の根本的本質が分かっておらんような連中が、ドヤ顔で計算ごっこだけやっても…」
「計算ごっこ? 大学にそんな遊びあるの?」
「それは揶揄した言い方だ」
「ヤユ?」
「まあいい。辞書で調べるがよい。とにかく、大学の物理学科の、物理の何たるかをまったくわかっておらん連中のやっておることなど、単なる計算ごっこに過ぎんのだ。したがって、必死こいて計算ごっこをやったって、そんなことは全く意味をなさんのだ。だからわしはそんな奴らに、そのことを明確に言ってやったんだ」
「ブツリの何たるかがわかんない連中が、必死こいて計算ごっこだけやっても意味をなさん? それをメイカクに言ってやった?」
「そのとおり!」
「なんだかその話、試験勉強で、ええと、その科目の何たるかがわかんないのに、必死こいて丸暗記してるのに通じるものがあるね。それはいわゆる…、ええと、砂の城だね!」
「お前さん、なかなかいいこと言う。それでだな、とにかく、その大学のバカどもにそう言ってやったわけだ」
「うんうん」
「そしたら…」
「そしたら?」
 そしたら、突然タイムエイジマシンのカーテンが開き、妹が出てきた。

「あらら、茶トラ先生、お元気だったのですね!」
「うんうん。わしは元気だ」
「それは良かったです。それに素敵なガウンですこと。白地に黄色!」

 茶トラ先生は妹の顔を見ると、五十年後、みかんの木の根元に埋められたことなどすっかり忘れ、上機嫌だった。
 だけど妹は、意外な話を始めた。

「それがね…」
 それから妹は、だぶだぶの服を着た姿で、スカートのすそを踏みそうになりながら、何とかマシンの外に出た。

「だけど、タイムマシンとエイジマシンが連動してるってきいていたけど、やっぱりこの時代へ来ると、私は十一歳にされちゃうのね」
「で、一体いつの時代からやってきたの?」
「五十年後よ」
「五十年後?」
「そうよ。それで、多分こうなるだろうと思って、若くてスマートだった頃の小さめの服をクローゼットからひっぱり出して、無理やり着てみたのだけど、やっぱり十一歳になると、だぶだぶなのね」
「ところでタイムエイジマシンの使い方は…」
「それはお兄ちゃんが四十年前に、くわしく教えてくれたでしょ」
「記憶にないなぁ」
「教えたの! それはいいのだけど、実は、火星が大変なの」


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