通夜へいく準備

文字数 1,197文字

 そういうと茶トラ先生は、それぞれのスーツの上下をぶら下げて、実験室の片隅へ行き、それらをハンガーに掛けると、その「染めQ」とかいう塗料の缶スプレーを実験室の片隅の引出しから取り出して、缶をカランコロンといわせながら塗装を始めた。
 もちろんその前に、窓を開けたけど。
 
 それから赤と白のスーツは見る見る真っ黒に染まり、あっという間に立派な喪服が二着完成した。
 少々色にムラはあったけれど…
 そして茶トラ先生は、実験室にあった強力なヒートガンで、これらをあぶると速攻で乾いた。

 それから早速二人で着替えることにした。
 ぼくも茶トラ先生も、おそろいの茶トラパンツの上からズボンをはこうとして…、だけどその前に、茶トラ先生は茶トラパンツ姿でまた家の奥へ行き、白のカッターシャツと黒のネクタイを二組持ってきた。

 それで早速ぼくらはそのカッターシャツを着てズボンをはいて、ネクタイを結ぼうとしたけれど、ぼくが結び方がよく分からないと言ったら、茶トラ先生が器用に結んでくれた。
 とにかくそうやって、ぼくら二人は立派な喪服姿になったんだ。

 それから茶トラ先生は香典袋をこれまた二つ用意して、それぞれに思いついたでたらめな名前を書き、お金を入れた。
 しかし茶トラ先生って手際いい!

「さて、お通夜の会場へ行くとしよう」
「だけど考えてみると、茶トラ先生がお通夜に来てくれて、どうするの?」
「だからわしはさっき『それなら調査をせねばなるまい…』と明確に言ったぞ。お前さんの親父さんが亡くなった事情を聞き出すのだ」
「事情を聞き出すと、どうかなるの?」
「対策を考えるのだ」
「対策? 一体そんなのがあるの?」
「わしらにはタイムエイジマシンがあるんだぞ。ともあれ、お前さんの家へ行くとしよう」

 それでぼくらは、ぼくの家へと向かうことにした。
 ああ、それから喪服にスニーカーじゃおかしいとかいって、茶トラ先生はぼくに立派な革靴を貸してくれた。
 とにかくぼくらは、ぼくの家へと向かって歩き始めたんだ。

「お前さんの親父さんの仕事は?」
「今はラジコン飛行機の会社に勤めてるよ」
「ラジコン飛行機? で、そこでどんな仕事をしているんだ?」
「ラジコン飛行機のテストパイロットなんだけど、最近は自動操縦装置の開発をしている、みたいなことを言ってた」
「ラジコン飛行機のテストパイロットに、自動操縦装置の開発?」
「うん」
「つまりラジコン飛行機が自動的に、つまり手放しで飛ぶわけだな」
「そうみたいだよ」
「そりゃまたすごい」
「最新の機械なんかをいろいろ使ってね」
「それじゃGPSやら、高性能の慣性航法装置なんかも必要じゃないのか?」
「GPSって? カンセイコウホウソウチって?」
「それはだな…」
 
 そんな話をしながらしばらく歩いたら、ぼくの家に着いた。

 つづく
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