出入りしはじめたペテン師

文字数 2,361文字

「未来のわしからのタイムメールによると、どうやら例のペテン師が、デビル君の家へ出入りしはじめたらしい」

 それからしばらくしたある日、ぼくもフラスコでミルクコーヒーを飲みながら、茶トラ先生の実験室でだべっているときだった。
 タイムエイジマシンに届けられた、未来の茶トラ先生からのタイムメールを読みながら、茶トラ先生はそう言ったのだ。

「え~? だってこのまえ、ばっちりあいつをやっつけたじゃん」
「この情報は、ペテン師をやっつける前の時代のわしからのものだ」
「ええと、いろんなわしがいて、ちょっとややこしいけどさぁ」
「いろんなわしについては、しっかり頭を整理することだ!」
「あのわしとかこのわしとか、いろいろなんだね」
「そういうことだ。それから、あ~、もちろんこの前の、豪華ホテルでのケリを付けた作戦によって、未来の歴史が書き換えられ、デビル君の親父さんが、ばかな契約をするということはおそらくないだろう。しかしまだ、あのペテン師が、デビル君の家に出入りするという未来を書き換えたわけではない」
「そうか。じゃ、デビルの家の玄関で待ち構えて一発ケリでも…」
「それは単なる暴力だ。しかしこの前の豪華ホテルでわしがやったケリは、ペテン師がデビル君の親父さんのお金を奪おうとして、38歳のデビル君やお前さんに暴力をふるったからこそ行えた正当防衛だ」
「じゃ、もうケリはないの?」
「なにもけらなくても、奴を撃退する方法は、ないわけではない」
 

 それからしばらくの間、茶トラ先生はそのペテン師の様子を見ていた。
 様子を見るというのは、いろんな未来の茶トラ先生からの、タイムメールでの情報をチェックしていたらしい。

 そしてある日、ぼくは茶トラ先生の実験室に呼ばれた。
 その日、ビーカーでコーヒーを飲みながら、茶トラ先生は、

「少なくとも今この瞬間、田中君の親父さんはまだお金を手に入れていないし、だから彼らがリゾート地へ引っ越して豪邸を買うのは、まだずいぶん先の話だ。しかし未来においてはそうなる予定にはなっておる。それはそれでいいのだが、この前の話のように、やがてあのペテン師がデビル君の家に出入りし始め、親父さんに取り入ろうとするだろう。だからそうならないように、予め手を打っておくことが望ましいのだ」
「だけどどうやって? で、その方法は、ないわけではないの?」
「情報によると、そのペテン師が初めてデビル君の家を訪ねたとき、豪邸の庭をいろいろかぎまわり、それからピンポーンと玄関を訪れ、まずは田中君の親父さんの外車を褒める。そして、これは外車用の特別なワックスがいいとか言って、車にそのワックスをかける。そのときが狙い目なのだ」
「どうするの?」


 それからぼくらはタイムエイジマシンで、その前日へ移動し、(だからその時点で、デビルたちは豪邸に引っ越している)そしてスワンボートでデビルの豪邸へと移動した。

 スワンボートでも3分を要する、そこはずいぶんと遠いリゾート地にあった。
 海が見渡せ、広々とした敷地で、芝生が生え、こんもりとした木がところどころに植えてあり、白いベンチが置いてあり、そして庭にはポルシェ。
 それからぼくらは、豪快な玄関でピンポーンと押すと、結構な服装のデビルが出てきた。

 それでぼくらは家に入り、豪快な応接間の、体が埋もれてしまうような豪快なソファーに座り、そしてデビルに、これから起こるであろう悲劇について詳しく説明した。

 それからデビルのご両親もやってきたので、茶トラ先生はもう一度、田中家にこれから訪れる悲劇について、さっきデビルにした話をバージョンアップした、さらの尾ひれの付いた、人を脅かすような、そして説得力のある説明をした。
 するとご両親の顔色が、みるみる真っ青になった。

 それで茶トラ先生は田中家の人々に、「わしらがそのペテン師を撃退するから心配はいらない」と言って、それから「その作戦に協力してくれるように」とも頼んだ。


 その夜は、本質的に楽天的なデビルが、「父ちゃんも母ちゃんも、びくびくしてても始まらねえよ」とか言って、それでデビルの提案で、家の庭で盛大にバーベキューをやり、白いベンチに座り盛大にどんちゃん騒ぎをやり、楽しい時を過ごした。
(デビルはカラオケで豪快に美声を発揮した)
 

 そしてその次の日の午後。
 案の定、ピンポーンとペテン師がやってきた。

 予めタイムメールネットワークでその時間も正確に予測できていたので、ぼくらはスタンバイし、デビルのお父さんが玄関に出た。

 そのペテン師は茶髪で、イヤリングをして、首にいくつも金のネックレスをして、腕に高級時計とじゃらじゃらしたアクセサリーを付けて、タバコ臭くて香水臭くて、いかにもうさんくさそうな男だった。
 そしてペテン師はまず、庭に置いてあるポルシェを豪快に褒め始めた。

「さすが田中さんはお目が高い。あれはポルシェの歴史的な名車ですね。あのお車を選ばれる方は、このあたりに住んでおられるセレブの方々でも、そうそうはおられませんよ。しかしあれを庭に置いておくのはもったいない。実は私は、超高級車専用の特別なワックスを持っているのです。ええと、今、車から取ってきますので、何なら今から、私がワックスをおかけしましょうか?」

 そう言ってそのペテン師は自分の車へ戻り、そのワックスを持ってきて、(本当に高級車専用かどうかは疑わしいが)早速デビルのお父さんの外車を洗車した上で、それからワックスをかけ始め…

 だけどタイムメールネットワークの情報によると、これが田中家の不幸の始まりなのだ。
 これ以来、そのペテン師は田中家に取り入り、あれやこれやと世話をして、田中家の人々の信頼を勝ち取り、それから最後にあのホテルで、あのペテン的な契約を結ぼうとするのだ。
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