エイジマシンを無効にするには

文字数 1,950文字

 それから数日後、あの話がどうなったのか知りたくて、で、例のケイタイ風無線機で連絡してから、ぼくは茶トラ先生の実験室へと向かった。
 すると「考え中」の茶トラ先生は、

「問題はエイジマシンの機能なのだ。つまり猫の寿命は人間と比べればずっと短い。しかもぴゃーちゃんはあと数ヶ月の命だろう。そうすると未来の獣医学でといっても、そこへ行くとエイジマシンの作用でぴゃーちゃんの寿命が尽きてしまう。かといって、タイムとエイジの連動を切り離すことは容易ではない。それが出来れば五十年後の亜里沙ちゃんが十一歳になったからと苦情を言われることもなくなる」
「健診は受けにくくなるけどね」
「そして実際わしは、何度もそれを試みたのだ。しかしわしが骨になった、あの五十年後へ向かったときの出来事以来、タイムとエイジは連動したままで、未だにそれを元に戻すことは出来ておらんのだ」
「だよね。困ったよね。あ! 骨になった話、自分で言ってやんの!」
「自分から言うのは構わんのだ」
「そうなんだ」
「それで今回は、わしはエイジマシンの作用だけを遮蔽する方法を模索してきた」
「モサク? それって与作みたいなお百姓さん?」
「それはいろいろと検討するってことだ」
「そうなんだ。で、シャヘイ?」
「要するにタイムとエイジは切り離せなくても、タイムマシンだけ作用させて、エイジマシンは働かんように出来ないかと考えたのだ」
「そんなことできるの?」
「実はエイジマシンの機能は、人間に、あ~、動物でも、つまりカエルでもそうなのだが、マシンから特殊な電磁波が出て作用するのだ」
「デンジハって?」
「まあ平たく言うと、電波だ。本質的には放送局から出ておる電波と同じだ。それにまあ考えてみると、放送局から出ておる電波は、だいたい人間どもを幼稚にするから、ある意味放送局とはエイジマシンのようなものだ」
「放送局は人間を幼稚にするエイジマシン? う~ん。それってなかなかガンチクがあるね」
「お前さんは含蓄などという難しい言葉をよく知っておるな」
「まあいいじゃん。で、茶トラ先生って、テレビ大っ嫌いだもんね。それで?」
「それで、あ~、エイジマシンの作用を遮蔽する、つまりエイジマシンの作用を無効にする方法を、あれからわしはあれこれ考えたのだ。いろいろ理論的にも考えたし、いろいろ実験もやった。そして行き着いたのは、とにかくエイジマシンの電磁波を遮蔽できる物質を見つけるということなのだ。平たく言えば、まあ、日光を遮る日傘のようなものだ」
「で、その日傘って、どういうものなの?」
「それでわしは、エイジマシンの特殊な電磁波を遮る物質をあれこれ探しておった。いろんな知人にも相談した」
「知人って、なんたらかんたらセンセイとかいう変な名前の人?」
「まあ、いろいろだ。そして、あ~、とある鉄鋼会社が作っておる、特殊な鉄鋼に、これまたとある会社がやっておる『ソルト焼入れ』という特殊な処理をすると、厚さ30センチを上回った場合にのみ、エイジマシンの特殊な電磁波を遮ることが出来ると分かったのだ」
「ええと、すご~~くややこしいけど、ともかくエイジマシンの作用を止める方法を見つけたってことね!」
「そうだ。しかし問題はその遮蔽物の厚さなんだ。なんせ30センチもある鉄鋼だ。それで、あ~、一匹の猫を入れるためのカゴは、おおよそ幅20センチ、高さも20センチ、そして長さは50センチほど必要だ。そしてその周りに厚さ30センチの鋼鉄製の遮蔽板があるとしたら、全体の大きさはそれぞれに30センチの二倍の60センチを加えると、おおよそ実に幅80センチ、高さも80センチ、そして長さは実に110センチというサイズになってしまう」
「ええと、冷蔵庫くらい? で、それをタイムエイジマシンの中に…」
「そうだ。もちろんその際、あのくるくる回る椅子は取り除いておかねばなるまい。しかし幸いあの椅子は、タイムエイジマシン作動にいささかの影響もない」
「そうか、椅子を外したらちょうどその冷蔵庫が立てて置けるね」
「しかし問題はその大きさではなく、その重さだ。計算によるとその遮蔽物の体積は、簡単のため、内部に猫を入れるスペースを無視すると、あ~、8×8×11=704リットル。そしてそれに鉄の比重である7.9をかけると重さは何と5562キログラムだ。つまり約5.6トン。通常これを運搬するには大型トラックが必要だし、移動といっても通常は大型クレーンが必要だ。しかもその鋼材を製造しておるとある企業は関西に、そしてそれほど大きな鋼材に、その特殊なソルト焼入れが出来る工場は関東にある」
「え~、どうするの? 難題山積だね」
「だが方法は、ないわけではない」
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