手紙

文字数 857文字

 田中君へ

 私はあなたのいる時代から、ちょうど五十年後、あなたと同じ十二歳になり、そして毎日元気で幸せに暮らしています。
 そして私は、茶トラ先生がメーデルハーデル先生と呼んでいる私の主治医から、私の存在を予言してくれたのは、あなただと聞きました。
 ほんとうにあなたの予言、そのすばらしいカンなくして、きっと私はこの世に存在していなかったでしょう。
 実は私は、本当は、妹のユキと一緒に生まれるはずだったそうです。
 つまり双子だったそうで、そして私のほうが姉だったそうです。
 だけど私は、お母さんのお腹の中で育っているとき、偶然にユキの体の中に埋もれてしまい、そのままユキだけが生まれたのだそうです。
 そして私はユキの体の中で、長い長い時を過ごしていました。
 だけどある日、突然、私は誰かに名前を呼ばれたような気がしました。
 そしてそれはきっと、あの日、あのホームセンターの駐車場で、あなたが私を呼んだのではないかと、私は今でもそう信じています。
 そして田中君のそのカンを、茶トラ先生と、そしてメーデルハーデル先生が信じてくれ、わざわざMRIという機械で私を見付けてくれ、そして医学が進んだ時代に、私はユキの体から取り出され、そして病院の先生たちや、いろんな人たちの大変な努力のおかげで、私は一人の人間として、この世に誕生させてもらうことができたのです。
 そして田中君の予言通り、周りの人たちは、私に「静香」という名前を与えてくれました。
 田中君、だからあなたは私の名付け親です。
 そしてあなたのカンなしには、きっと私はずっとずっと、ユキの体の中に埋もたままだったでしょう。
 だから私が今、こうしてこの世に存在できるのは、みんなあなたのおかげなのです。
 だから、田中君、本当に感謝しています。
 本当にありがとうございました。
 50年後の未来から、心を込めて…
                              静香

 静香ちゃんの秘密 完
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