そこは…
文字数 1,890文字
それからぼくは鏡を見た。
するとぼくは、びっくりするような姿になっていた。
ぼくはきっと、六十二歳…
マシンの外に出ると、茶トラ先生の実験室は、二十五年後の未来へ来た時と、あまり変わってはいなかった。
いろんな機械なんかも同じ場所に同じように置かれていた。
二十五年間、時が止まっていたのだと、ぼくは思った。
だけど床やテーブルの上に積もったほこりはさらに厚くなっていたし、置いてある機械はぼろぼろに錆び、そしてほこりにまみれていた。
やっぱりあれから二十五年の時が流れているのだと、ぼくは思った。
そしてふと見ると、割れた窓から風が吹き込み、ぼろぼろに錆びた茶トラ先生ご自慢のフーコー振り子が、ゆらゆらと揺れていた。
この振り子だけは五十年間「生きて」いた。
それからぼくは家の外に出た。
タイムエイジマシンで設定した時間は午後だったので、外はまだ明るかった。
庭では草がぼうぼうに伸び、風になびいていた。
そして木々が大きく育っていた。
それを見ながら、ぼくはしばらく呆然とした。
どうしたらいいのか、さっぱり分からなかった。
タイムエイジマシンの中で、茶トラ先生が骨と灰に…
涙がこぼれてきた。
それからどのくらいの時間が過ぎただろ。
「お兄ちゃん!」
その声に、ぼくは涙を拭いてから振り返った。
そこには妹が立っていた。
結構な年寄りだった。だけどすぐに妹だと分かった。
そして多分、六十一歳。
「約束の時間に大学病院に来なかったから、多分茶トラ先生の所だろうと思ったの」
それからぼくは、妹にタイムエイジマシンでの出来事を話した。
茶トラ先生の身に起こったこと。
そしてぼくがこんな歳で、茶トラガウンなんかを着ていたことも…
「タイムマシンとエイジマシンが連動?」
「そうなんだ。それで茶トラ先生が骨に…」
「そうなの」
「それに見てよ、ぼくの姿」
「私よりひとつ年上のお兄ちゃんの姿だね」
「うん」
「それじゃ、茶トラ先生は百歳以上?」
「多分、百十五歳」
「そうか。それで骨に…」
「それで、これからどうしたらいいと思う?」
「そうねえ、とにかく、茶トラ先生の骨と、それから灰も全部集めましょう。ええと、ちょっと待ってね。袋、持ってくるわ」
そういうと妹は、乗ってきた未来の自動車から袋を持ってきた。
「とりあえず、Aコープの買い物袋だけど、これに茶トラ先生を入れようよ」
それでぼくらは実験室へ戻り、タイムエイジマシンの床に散らばった「茶トラ先生」と、最後に着ていた服を袋に入れた。
「で、どうしたらいいの?」
「茶トラ先生をどうするかは…、またあとで考えようよ。とにかく、大学病院へ行きましょう。約束があるでしょう。それから茶トラ先生も車に乗せて」
「うん…」
それからぼくらはまた外に出て、妹の乗ってきた未来の自動車に乗った。
ハンドルもなく、運転席にはタッチできるモニターだけがあった。
妹がそのモニターで地図を出し、大学病院をタッチすると、「発車」という文字が出て、それにタッチすると、車は走り出した。
それから、自動運転で走る車の中で、妹はこんな話を始めた。
「薬は完成したんだよ。大変だったのよ。それと、お兄ちゃんに逢わせたい人もいるの」
「そうなんだ。完成したんだ。やったね! で、合わせたい人?」
「うん。だけどあれからもう二十五年も過ぎたのね。信じられない…」
「そうだね」
(ぼくにとってはたったの一日だけど…)
それから車は走り続け、大学病院に着いた。
そして廊下を歩きエレベーターに乗って、また廊下を歩いたら、第二内科医局に着いて、ぼくらは中へ入った。
そこは少し古ぼけていたけれど、二十五年前とあまり変わってはいなかった。
「そこのソファーに座って、ちょっと待っててね。今、逢わせたい人を連れてくる。それから…そのガウン、けっこうイカしてるよ」
そういうと妹は医局を出ていった。
ぼくは変な格好をしている(茶トラガウン)ので、こんなところでは場違いじゃないかと心配だったけれど、妹がそう言うので、少しだけ安心して、それからその場所で待つことにした。
それから少しして、妹と一緒に、四十半ばくらいの年頃のお医者さんが医局に入って来た。
その人は、一つの箱を持っていた。
それでぼくはあわててソファーから立ち上がった。
ぼくはその人の顔を見て、すぐに思い出した。
二十五年前、といってもぼくにとっては一日前だけど、
「てめえ渡せねえのか、このやろう!」と言って、茶トラ先生から洗いざらいの資料をもらおうとした、あの医学生だった人だ。
そして妹が「将来のホープ」と言っていた、あの人だ。
するとぼくは、びっくりするような姿になっていた。
ぼくはきっと、六十二歳…
マシンの外に出ると、茶トラ先生の実験室は、二十五年後の未来へ来た時と、あまり変わってはいなかった。
いろんな機械なんかも同じ場所に同じように置かれていた。
二十五年間、時が止まっていたのだと、ぼくは思った。
だけど床やテーブルの上に積もったほこりはさらに厚くなっていたし、置いてある機械はぼろぼろに錆び、そしてほこりにまみれていた。
やっぱりあれから二十五年の時が流れているのだと、ぼくは思った。
そしてふと見ると、割れた窓から風が吹き込み、ぼろぼろに錆びた茶トラ先生ご自慢のフーコー振り子が、ゆらゆらと揺れていた。
この振り子だけは五十年間「生きて」いた。
それからぼくは家の外に出た。
タイムエイジマシンで設定した時間は午後だったので、外はまだ明るかった。
庭では草がぼうぼうに伸び、風になびいていた。
そして木々が大きく育っていた。
それを見ながら、ぼくはしばらく呆然とした。
どうしたらいいのか、さっぱり分からなかった。
タイムエイジマシンの中で、茶トラ先生が骨と灰に…
涙がこぼれてきた。
それからどのくらいの時間が過ぎただろ。
「お兄ちゃん!」
その声に、ぼくは涙を拭いてから振り返った。
そこには妹が立っていた。
結構な年寄りだった。だけどすぐに妹だと分かった。
そして多分、六十一歳。
「約束の時間に大学病院に来なかったから、多分茶トラ先生の所だろうと思ったの」
それからぼくは、妹にタイムエイジマシンでの出来事を話した。
茶トラ先生の身に起こったこと。
そしてぼくがこんな歳で、茶トラガウンなんかを着ていたことも…
「タイムマシンとエイジマシンが連動?」
「そうなんだ。それで茶トラ先生が骨に…」
「そうなの」
「それに見てよ、ぼくの姿」
「私よりひとつ年上のお兄ちゃんの姿だね」
「うん」
「それじゃ、茶トラ先生は百歳以上?」
「多分、百十五歳」
「そうか。それで骨に…」
「それで、これからどうしたらいいと思う?」
「そうねえ、とにかく、茶トラ先生の骨と、それから灰も全部集めましょう。ええと、ちょっと待ってね。袋、持ってくるわ」
そういうと妹は、乗ってきた未来の自動車から袋を持ってきた。
「とりあえず、Aコープの買い物袋だけど、これに茶トラ先生を入れようよ」
それでぼくらは実験室へ戻り、タイムエイジマシンの床に散らばった「茶トラ先生」と、最後に着ていた服を袋に入れた。
「で、どうしたらいいの?」
「茶トラ先生をどうするかは…、またあとで考えようよ。とにかく、大学病院へ行きましょう。約束があるでしょう。それから茶トラ先生も車に乗せて」
「うん…」
それからぼくらはまた外に出て、妹の乗ってきた未来の自動車に乗った。
ハンドルもなく、運転席にはタッチできるモニターだけがあった。
妹がそのモニターで地図を出し、大学病院をタッチすると、「発車」という文字が出て、それにタッチすると、車は走り出した。
それから、自動運転で走る車の中で、妹はこんな話を始めた。
「薬は完成したんだよ。大変だったのよ。それと、お兄ちゃんに逢わせたい人もいるの」
「そうなんだ。完成したんだ。やったね! で、合わせたい人?」
「うん。だけどあれからもう二十五年も過ぎたのね。信じられない…」
「そうだね」
(ぼくにとってはたったの一日だけど…)
それから車は走り続け、大学病院に着いた。
そして廊下を歩きエレベーターに乗って、また廊下を歩いたら、第二内科医局に着いて、ぼくらは中へ入った。
そこは少し古ぼけていたけれど、二十五年前とあまり変わってはいなかった。
「そこのソファーに座って、ちょっと待っててね。今、逢わせたい人を連れてくる。それから…そのガウン、けっこうイカしてるよ」
そういうと妹は医局を出ていった。
ぼくは変な格好をしている(茶トラガウン)ので、こんなところでは場違いじゃないかと心配だったけれど、妹がそう言うので、少しだけ安心して、それからその場所で待つことにした。
それから少しして、妹と一緒に、四十半ばくらいの年頃のお医者さんが医局に入って来た。
その人は、一つの箱を持っていた。
それでぼくはあわててソファーから立ち上がった。
ぼくはその人の顔を見て、すぐに思い出した。
二十五年前、といってもぼくにとっては一日前だけど、
「てめえ渡せねえのか、このやろう!」と言って、茶トラ先生から洗いざらいの資料をもらおうとした、あの医学生だった人だ。
そして妹が「将来のホープ」と言っていた、あの人だ。
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