再びデビルの相談事

文字数 2,330文字

 それからしばらく過ぎたある日。
 給食の後の昼休みに、デビルがとても深刻な顔をして、またぼくのところへとやってきた。

 ちなみに運動会の時に、ゆりちゃんにぶんなぐられたデビルの顔は、最初はデパート前交差点で転んで顔を打った翌日の朝のお父さんみたいだったけれど、その日、相談に来た時は、普通の青あざくらいにまで良くなっていた。
 それはいいけれど…

 それにしてもぼくは、ずいぶんデビルに見込まれたもんだ。
 相談事があれば、何でもぼくに相談すればいいとでも思っているみたい。
 とにかく、また何か相談事らしい。

「なあイチロウ、ええと、あの…、このごろゆりちゃんなんだけど、ぜんぜん元気がなくて、それに顔色も悪いみてえなんだ。ときどき、ふらふらしているような気もするしぃ…」
「だってゆりちゃん、運動会であんな悲劇的なことがあったじゃん。田中君があんなことを…、だから元気がなくなるのだって、顔色が悪くなるのだって、それにふらふらするのだって、あたりまえじゃん!」
「え~、あたりまえじゃねーぞ! ふつうそのくらいのことでそうなるか? やっぱしおかしいぞ!」
「そうかなぁ。あれはあれで十分に悲劇的だと思うけど」
「あの出来事をそんな悲劇的悲劇的言うな! とにかく! そういう問題じゃない! おれが思うに、ゆりちゃん、きっとただ事じゃないぞ! おれ、何となくカンで分かるんだ。いいか、甲子園の言問高校の優勝だって、おれのカンが当たった。だから今度もおれのカンだ。残念ながらおれのカン、きっと当たるぞ。だからゆりちゃん、きっと重い病気だぞ!」
「そりゃまあ、田中君のカンはすごいけどね。言問い高校の話だってすごいと思うよ。それは認めるよ。だけどゆりちゃんが病気? 本当かなぁ」
「本当だってば!」
「で、ぼくにどうしろっていうの?」
「だから、茶トラ…」

 それでぼくらはその日の放課後、またまた性懲りもなく、茶トラ先生を訪ねた。
「確かにわしは物理学者だが、同時に医者でもあるから、先日のようなキューピットの話ならともかく、病気の相談事なら、のってあげられんこともない」
「だから頼むよ茶トラ先生! ええと、ゆりちゃん、顔色悪いしぃ、なんだか元気もないしぃ、それに、ときどきふらっと…」
「そうかなぁ。ぼくは、いつもとあまり変わんないと思うけどな」
「いやいや、ちがうんだ。全然ちがう! おれ何となく分かる。とにかくこれは、絶対に、おれの、カンだ!」
「いわゆる第六感というやつだな。わしは頭ごなしに、そういうものを全否定するつもりはない」
「だろうだろう、な、だから茶トラ先生、なんとかしてよ!」
「ねえねえ茶トラ先生、だったらさぁ、ええと、本当にゆりちゃんの具合が悪いのか、これからどんどん悪くなっていくのか、さもなければ何ともないのか、とにかくそういうことを見分ける、とてもいい方法があると思うのだけど」
「それってなんだよ。なあイチロウ、もったいぶらねえで、さっさと言えよ!」
「それはね。ええと、茶トラ先生風に言うと、えへん! 『まずは調査せねばなるまい…』」
「ほうほう。それでお前さんは一体どういう調査のアイディアを持っておるのだ?」
「だからゆりちゃんの近未来を調査するのさ。ええと、1年後くらいってのはどう?」
「1年後へ行って一体何をする?」
「偵察だよ。まずゲシュタルト先生の道場へ行ってみる。ええと、日にちは…、そうだな、決めた! ぴったり1年後の今日にしよう。その日ぼく、空手の練習休むよ。するとぼくとぼくが鉢合わせしなくていいし。で、ぼくがこれからタイムエイジマシンでその日へ行って、道場でゆりちゃんの様子を見てくるよ。で、道場で元気にやってれば万事OKだろう。ええと、田中君もいっしょに行く?」
「うーん。だけどおれ、ちょっと気まずいかな…」
「あはは、そりゃそうだよね。またゆりちゃんに思い切り張り倒されるのも怖いだろうしね。だったらここで茶トラ先生とバカ話でもしときなよ。ぼくはゆりちゃんの様子をうかがって、安全が確認できたら、すぐに帰ってくるよ」
「わかったよ」
「ええと、それじゃ茶トラ先生、1年後にまたね」
「言っておくがわしはバカ話などせんぞ。わしはきちんとした科学的な議論しかやるつもりはない」
「ははは。そうだよね。わかったよ。それじゃ田中君、茶トラ先生と、これからきちんとした物理的な議論でもやっときな」
「OK。それならまかしときなって。きちんとしたブツリだな」
「まあともあれイチロウ、1年後のわしによろしくな」
「は~い。それじゃね」

 それで早速ぼくは、タイムエイジマシンで1年後のその日へと移動し、1歳だけ歳をとった。
 歳をとるのはタイムマシンとエイジマシンが、いまだに連動しているからだ。
 それはずっと前のエピソードで、茶トラ先生が思い切り骨にされた話で書いてあるけど、それはまあいい。

 さて、それからぼくはタイムエイジマシンで1年後へ移動してカーテンを開けると、そこには1年後の茶トラ先生がいて、早速ぼくが事情を言おうとしたら、
「そのことなら、とうにわしは1年も前からは知っておる」と先回りして言ったので、それでぼくは、
「それはそうだよね」と言って、それから歩いてゲシュタルト先生の道場へと向かった。

 道場へ着くと名札掛けにゆりちゃんの名前があって一安心だったけれど、まだ道場には来ていないようで、それからゲシュタルト先生に促され、ぼくは練習を始めることになった。 

 だけどそれでもなかなかゆりちゃんは来なくて、練習が終わってもこなくて、そして何とゲシュタルト先生が、これからみんなでゆりちゃんの入院している病院へお見舞いに行く、なんてことを言いはじめたんだ。

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