デビルに恫喝された!
文字数 2,155文字
それからいつもどおりの夏休みが始まった。
やっぱりデビルとは、時々いろんな場所で鉢合わせした。
そしてそのたびに、あいつは弁償しろ弁償しろと弁償しろ~~~! と、ぼくに因縁をつけてきた。
しかも弁償する代金には、あいつの脳内で勝手に考えるでたらめな利子が付いて、いつのまにか三万円にもなっていた。
そしてある日のこと。
うかつにもぼくは、タコ公園のあたりでばったりとデビルに出くわしてしまった。
しかもそのとき、あいつは子分を数人従えていたから、ぼくはたちまち奴らに取り囲まれてしまったんだ。
そしてぼくはタコ公園のタコ滑り台の近くまで追い詰められ、デビルにむなぐらをつかまれ、明日までにお金を払わないと半殺しにすると言われ、三発殴られ、一発蹴りを入れられた。
そして明日の午後三時にこの滑り台のところまで金を持ってこいと言って、もう一発殴られた。
殴ったときデビルは、この最後のパンチは利子の一部とみなしてやるから、あと二日だけ待ってやるなどと勝手なことを言った。
何でも明日とあさっては家族旅行でいないからだそうだ。
だけど、とにかくぼくは三日後の午後三時に三万円払わされることになった。
それにしてもぼくは何も悪いことをしていない。
あいつが勝手にぼくの自転車をハイジャックして、勝手にこけただけだ。
お金を払う筋合いなど、全くない。
何というむちゃくちゃなこと!
それからぼくは、例のケイタイ風無線機で茶トラ先生に連絡した。
そして先生がいることを確認してから、自転車で先生の実験室へ行き、それから先生に「助けて!」と泣きついた。
茶トラ先生はビーカーに入れたコーヒーを飲みながら、いつものよれよれの白衣ではなく、黄色に茶色のストライプの入ったイカしたガウンを着て(それをぼくは「茶トラガウン」と呼ぶことにしたのだけど)とにかく先生は実験室で、水銀の上に何枚かの鏡を乗せ、それに光を当てて何かの測定をやっていた。
「有名な、マイケルソン~モーレイの実験を再現しているんだ。エーテルの風を…」
「茶トラ先生お願い、助けて!」
「助ける?」
「ええと、だから三万円貸して!」
「三万円? 何をバカなこと言っとる!」
「とにかく貸して!」
「はは~ん。どうやら悪ガキどもに恐喝されとるな」
「分かる?」
「当たり前だ」
「じゃ、貸して!」
「バカなことぬかすな。自分で何とかしろ!」
「そんなこと言ったって…」
「まあそうだろうな。相手は怪力で、しかも子分を従えとるだろう」
「もしかしてさっきの、見てたの?」
「お前さんの腫れたくちびると、服に着いた泥は何だ?」
「それは…」
「そんくらいのこと、簡単に想像がつくわい。わっはっは。まあいい。何とかする方法は…、ないわけではない」
「え~? また『何とかする方法は…、ないわけではない』だなんて、またまたそんなもったいぶって、まわりくどくて、ややこしい言い方!」
「しょうがないだろう。こういう言い方は、わしのクセなのだ」
「クセ? はいはいはい。で?」
「ただしだ。お前さんは、それなりにある程度の努力が必要だ」
「それっていったい、どんなある程度の努力?」
「空手の達人になるのだ!」
「なんだよいきなり。それに支払いの期限は三日後だぞ!」
「とりあえずお前さんは今から空手道場へ行き、ただちに入門の手続きをしろ」
「ただちにってたって、そんなのじゃ全然間に合わないってば!」
「とにかく行け。一か月分の月謝ならわしが立て替えておいてやる」
「それはありがとう。だけど…」
「ともあれわしの知り合いが…ああ、その人はゲシュタルト先生というのだが、 空手道場をやっておるからそこへ行け。その人はわしの古い友人だ」
「ゲシュタルト先生? 変~んな名前!」
「ああ、名前はゲシュタルト先生と、わしが勝手に呼んでおるだけだ。実は、本当の名前は、知らん」
「本当の名前は知らん? 古い友人なんでしょう?」
「五十年来の友人だ。まあ、そういうことはどうでもよい」
「はいはいはい。どうでもよいのね。で?」
「あ~、たしか今頃は練習も終っておる時間だから、行って手続きだけしてこい」
「手続きだけ?」
「そうだ。そしたらただちに帰ってこい。あ~、わしも前もって電話をしといてやる」
そういうわけで、茶トラ先生はさくさくと空手入門を決めてしまい、それからさささっと、とても乱暴でいいかげんな地図を書いてぼくに渡し、それでぼくは操られるように、そして乱暴でいいかげんな地図に戸惑いながらも、何とか言われた空手道場へ着いた。
そこにはいかにも茶トラ先生と気が合いそうな、思い切り風変わりな髭ボーボーの変人がいて、その人がゲシュタルト先生なのだけど、その人と少し話をして、それから早速入門させてもらった。
ただし空手の練習はしばらく休みだった。
なんでも、ゲシュタルト先生がしばらくの間、ヒマラヤでトレッキングなんかをやる旅行へ行くからだそうで、練習は八月末からになると言われた。
冗談じゃないよ!
ぼくは三日後の午後三時に三万円持って、デビルのところへ行かなければいけないのに!
やっぱりデビルとは、時々いろんな場所で鉢合わせした。
そしてそのたびに、あいつは弁償しろ弁償しろと弁償しろ~~~! と、ぼくに因縁をつけてきた。
しかも弁償する代金には、あいつの脳内で勝手に考えるでたらめな利子が付いて、いつのまにか三万円にもなっていた。
そしてある日のこと。
うかつにもぼくは、タコ公園のあたりでばったりとデビルに出くわしてしまった。
しかもそのとき、あいつは子分を数人従えていたから、ぼくはたちまち奴らに取り囲まれてしまったんだ。
そしてぼくはタコ公園のタコ滑り台の近くまで追い詰められ、デビルにむなぐらをつかまれ、明日までにお金を払わないと半殺しにすると言われ、三発殴られ、一発蹴りを入れられた。
そして明日の午後三時にこの滑り台のところまで金を持ってこいと言って、もう一発殴られた。
殴ったときデビルは、この最後のパンチは利子の一部とみなしてやるから、あと二日だけ待ってやるなどと勝手なことを言った。
何でも明日とあさっては家族旅行でいないからだそうだ。
だけど、とにかくぼくは三日後の午後三時に三万円払わされることになった。
それにしてもぼくは何も悪いことをしていない。
あいつが勝手にぼくの自転車をハイジャックして、勝手にこけただけだ。
お金を払う筋合いなど、全くない。
何というむちゃくちゃなこと!
それからぼくは、例のケイタイ風無線機で茶トラ先生に連絡した。
そして先生がいることを確認してから、自転車で先生の実験室へ行き、それから先生に「助けて!」と泣きついた。
茶トラ先生はビーカーに入れたコーヒーを飲みながら、いつものよれよれの白衣ではなく、黄色に茶色のストライプの入ったイカしたガウンを着て(それをぼくは「茶トラガウン」と呼ぶことにしたのだけど)とにかく先生は実験室で、水銀の上に何枚かの鏡を乗せ、それに光を当てて何かの測定をやっていた。
「有名な、マイケルソン~モーレイの実験を再現しているんだ。エーテルの風を…」
「茶トラ先生お願い、助けて!」
「助ける?」
「ええと、だから三万円貸して!」
「三万円? 何をバカなこと言っとる!」
「とにかく貸して!」
「はは~ん。どうやら悪ガキどもに恐喝されとるな」
「分かる?」
「当たり前だ」
「じゃ、貸して!」
「バカなことぬかすな。自分で何とかしろ!」
「そんなこと言ったって…」
「まあそうだろうな。相手は怪力で、しかも子分を従えとるだろう」
「もしかしてさっきの、見てたの?」
「お前さんの腫れたくちびると、服に着いた泥は何だ?」
「それは…」
「そんくらいのこと、簡単に想像がつくわい。わっはっは。まあいい。何とかする方法は…、ないわけではない」
「え~? また『何とかする方法は…、ないわけではない』だなんて、またまたそんなもったいぶって、まわりくどくて、ややこしい言い方!」
「しょうがないだろう。こういう言い方は、わしのクセなのだ」
「クセ? はいはいはい。で?」
「ただしだ。お前さんは、それなりにある程度の努力が必要だ」
「それっていったい、どんなある程度の努力?」
「空手の達人になるのだ!」
「なんだよいきなり。それに支払いの期限は三日後だぞ!」
「とりあえずお前さんは今から空手道場へ行き、ただちに入門の手続きをしろ」
「ただちにってたって、そんなのじゃ全然間に合わないってば!」
「とにかく行け。一か月分の月謝ならわしが立て替えておいてやる」
「それはありがとう。だけど…」
「ともあれわしの知り合いが…ああ、その人はゲシュタルト先生というのだが、 空手道場をやっておるからそこへ行け。その人はわしの古い友人だ」
「ゲシュタルト先生? 変~んな名前!」
「ああ、名前はゲシュタルト先生と、わしが勝手に呼んでおるだけだ。実は、本当の名前は、知らん」
「本当の名前は知らん? 古い友人なんでしょう?」
「五十年来の友人だ。まあ、そういうことはどうでもよい」
「はいはいはい。どうでもよいのね。で?」
「あ~、たしか今頃は練習も終っておる時間だから、行って手続きだけしてこい」
「手続きだけ?」
「そうだ。そしたらただちに帰ってこい。あ~、わしも前もって電話をしといてやる」
そういうわけで、茶トラ先生はさくさくと空手入門を決めてしまい、それからさささっと、とても乱暴でいいかげんな地図を書いてぼくに渡し、それでぼくは操られるように、そして乱暴でいいかげんな地図に戸惑いながらも、何とか言われた空手道場へ着いた。
そこにはいかにも茶トラ先生と気が合いそうな、思い切り風変わりな髭ボーボーの変人がいて、その人がゲシュタルト先生なのだけど、その人と少し話をして、それから早速入門させてもらった。
ただし空手の練習はしばらく休みだった。
なんでも、ゲシュタルト先生がしばらくの間、ヒマラヤでトレッキングなんかをやる旅行へ行くからだそうで、練習は八月末からになると言われた。
冗談じゃないよ!
ぼくは三日後の午後三時に三万円持って、デビルのところへ行かなければいけないのに!
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