ドッペルゲンガー作戦、そして…

文字数 1,814文字

 ドッペルゲンガー現象って、ぼくがお父さんの替え玉になって、ラジコン飛行場でのデモフライトをぶちこわして、お祝いのパーティーが中止になるはずが、「残念会」になりそうなときに、誰かさんがぼくの家に電話してきて、それでぼくが盗み聞きで聞いた話題だ。
 で、そのときの会話では…


「お前そっくりの奴? じゃ、お前がお前を羽交い絞めにしたってか? そんなバカなことがあってたまるか!」
「本当なんだ」
「お前、頭がイカれたのか。そうだ! そいつはひょっとして、いわゆるドッペルゲンガー現象じゃないのか?」
「ドッペルゲンガー現象?」
「そうだ。ある日突然自分そっくりの奴が見えて、それは死の前触れなんだ」
「何だって?」


 それでどうやら今回は、二人のペテン師を鉢合わせさせて、ドッペルゲンガー現象の恐怖を味あわせて撃退しようというのが、茶トラ先生の作戦だったみたいだ。
 で、115歳の仙人風茶トラ先生は、怖ぁ~く話を続けた。

「これはずばり、ドッペルゲンガー現象じゃろうて。それはある日突然、自分自身の姿が幻影のように見え、しかしてそれは、差し迫った死の前触れなのじゃ」
「ししし…、死の前触れ?」
「そうじゃ。さすればこの土地は、いまから600年余り前、すさまじい合戦の舞台であったのじゃ」
「かかか、合戦の、舞台ですかぁ?」
「そうじゃ。そしてこの土地では、沢山の武将が命を落としておる」
「いいい、命を? そんなことが…」
「さすれば」
「ささ、さすれば?」
「さすれば、この地で命を落とした武将たちはここで地縛霊となり、そしてこの地を訪れるものどもを、死の世界へ誘おうとするのじゃ」
「ししし、死の世界へ誘…」
「じゃからわしが察するに、そういう理由で、たった今お前さんの身に、このドッペルゲンガー現象が起こったのじゃろうて…」
「どどど…」
「悪いことは言わん。お前さんはもう二度度この地を訪れぬことじゃ。さもなければ地縛霊の…」
「地縛霊…」
「そうじゃ。これはまさしく地縛霊の呪いなのじゃ! いひひひひひ…」

 そうやって115歳の仙人風茶トラ先生が、迫力満点にそういうと、ペテン師は「ひえ~~~~~~」と言ってから、真っ青な顔で、「わ~~~~~~」っと言いながら、一目散にどこかへと逃げて行った。

 それから115歳の茶トラ先生は、
「あはははははは」と豪快に笑い、すると115歳じゃない、いつもの茶トラ先生が「お疲れさん」というと、115歳の茶トラ先生は「さらばじゃ」と言ってから、仙人のコスチュームをひらひらさせながら歩き、なぜかもう一機あったスワンボートで帰って行った。

 それからぼくらは、犬小屋へ閉じ込めた方のペテン師をどう処分するか考えながら、とりあえず見に行ってみると、犬小屋の中にいたはずのペテン師がこつぜんと消えていた。

「はは~ん。どうやら歴史が書き換えられたようだ」
「歴史が?」
「115歳のわしの脅しが利いたのだ。もちろん600年余り前の合戦などは、わしとわしが考えたでたらめな作り話だ。だがあの話を聞けば、ペテン師はびびって二度とこの家にはこないだろう」
「そうなの? 600年余り前の合戦って、わしとわしが考えたでたらめなんだ」
「つまりペテン師を脅かすためのフィクションだ。そして、そのフィクションを115歳のわしから迫力満点に聞かされたので、奴はびびって逃げ出したのだ。だからもう二度とこの家へ来ることはなかろう」
「そうなんだ」
「だからこの家へ来て、田中君の親父さんの車にワックスをかけるとか、あれやこれやちょっかいを出して付きまとうというような忌まわしい未来は、これで完全に消滅したはずだ」
「消滅?」
「そうだ。そしてそういうわけで、ここにいたはずのペテン師は、『来なかった』ということになり、未来が消滅した以上、ワックスをかけたペテン師のそういう未来も消滅したのだろう」
「そうなんだ。それで犬小屋にいたペテン師は消滅したんだ。だけどそれってすごくややこしい話だね」
「ややこしいが、よく頭を整理するように」
「は~い」
「それはそうと、これからデビル君一家には、あまり派手な暮らしはしないように忠告せんといかんな」
「そうだね。つまり茶トラ先生みたいな、超人的に地味な生活がいいんだよね」


 ドッペルゲンガー作戦 完
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