旅客機救助のミッション

文字数 2,653文字

 それからも旅客機はとても不安定に飛行し、そしてその揺れは徐々に大きくなり、一刻も早く旅客機を救助しなければいけない状況になっていた。
 それで茶トラ先生がお父さんに目で合図を送ると、お父さんは航空無線機を使って、旅客機の機長との交信を試みた。
 お父さんは自分の名前とかつての職場と、そして現在、ある極秘の特殊な航空機で旅客機の後ろに付いていて、これから旅客機の救助を試みるという意味のことを伝えたんだ。
 実は、事故機の機長が誰だったかは、未来の茶トラ先生からのタイムメールの事故情報で伝えられていて、それを見た父さんは、そのときすでに、そのことを知っていた。
 それでお父さんは、「あいつが機長なら話しやすいからたすかった」と言っていたのだ。
 それで、旅客機の機長は、驚いたようにこう答えた。
「え! 鈴木君? そうか。我々を助けに来てくれたんだ…」

 それから茶トラ先生はスワンボートを操作し、旅客機の胴体の前の部分、つまりコックピットの少し後ろあたりの部分の屋根に「着陸」させようとした。
 ところが旅客機の機首は上下左右に激しく揺れていて、茶トラ先生はなかなか着陸できない様子だった。
 だけどそれを見ていたお父さんが「私がやりましょう」と言って、副操縦士席から操縦かんを握った。
 実はスワンボートは、左右どちらの席からでも操縦できた。
 ちなみに、これは航空機では一般的な仕組みだ。
 それでお父さんは「I hove control」と言ってから操縦を始めた。
 これはパイロットの用語で、操縦交代時に操縦を担当したパイロットが言う、「私が操縦します」という意味の言葉だ。
 それからお父さんは大きく揺れる旅客機にもう一度接近し、巧みにスワンボートを操りながら、何とかスワンボートを屋根に降ろそうとしたが、やっぱり難しそうで、だけど何回目かの試みで、やっと目的の、旅客機の機首近くの、コックピットのすぐ後ろあたりの屋根にスワンボートを降ろすことに成功した。
 手に汗握っていたぼくらはほっと胸をなでおろした。

 それで、実はスワンボートの底には大きな吸盤が付けられていて、スワンボートが旅客機の屋根に降りると、その吸盤が旅客機の屋根にべしゃりとくっつき、しかもその吸盤は、茶トラ先生がスワンボートに積んでいた真空ポンプにつながっていたんだ。
 それから茶トラ先生は後ろを振り返り、ぼくに、「真空ポンプのスイッチを入れろ」という合図をしたので、ぼくがそのスイッチを入れると、ポンプはシュポシュポという音をたてながら動き始めた。
 どうやらこれで吸盤内の空気が抜かれ、スワンボートは旅客機の屋根に強力にくっつくということらしかった。
 そしてスワンボートの強力な力、それは5トン以上の鉄の塊だって運べるすごい力で旅客機を抑え込み、それまで不安定に機首を上げ下げしていた旅客機は、その上下運動をぴたりと止めた。
 
 つぎに茶トラ先生は、無線でヤス子ちゃんとデビルに指示をした。
「ヤス子ちゃんは右の翼の先端、ウイングレットのすぐ内側へ、田中君は左のウイングレットの内側へ付ける。まだ翼は揺れておるからとくに注意しろ!」
「え~! ウイングレットってなんだ?」
 すると無線からデビルの声。
 だけどヤス子ちゃんは、
「え~! 田中君、ウイングレットも知らないの? 翼の先っちょに、上向きにぴょんと付いてるでしょ」
「あぁ、あれかぁ」
 それから2機のソラデンは、大きく揺れる旅客機のそれぞれの翼の上へ行き、翼が揺れるのでとても大変そうだったけれど、悪戦苦闘の末(とくにデビル!)とにかくそれぞれの翼の先端に、何とか2機とも「着翼」に成功した。
 それを見てぼくらはもう一度、ほっと胸をなでおろした。
 それで、とにかくこうすると、それまでぐらぐらと左右に揺れていた旅客機の翼は、ソラデンの強力な力で抑え込まれ、びしっ!っと安定した。(ソラデンの脚にも強力な吸盤が…)

 そして、これからどうするのだろうと思っていたら、突然お父さんがラジコン飛行機の送信機をカバンから取り出して、スイッチを入れた。
 同時に茶トラ先生はスワンボートを「ラジコンモード」へ切り替えた。
 つまりスワンボートはお父さんの送信機でコントロール出来たのだ。
 それから茶トラ先生は、無線機でヤス子ちゃんとデビルにまたまた指示をした。
「ソラデンをラジコンモードに切り替えるんだ」
「え~! どうやって切り替えるんだよ?」
 またしても無線からデビルの声。
 だけどヤス子ちゃんは、
「ハンドルのモニターの手前に赤いスイッチが付いてるでしょ? きのう茶トラ先生が徹夜して付けたのよ!」

 とにかく茶トラ先生は徹夜でいろいろやってたらしいんだ。
 ラジコンモードへの切り替えスイッチとか、そもそも、ラジコン飛行機の送信機で、スワンボートと2機のソラデンを操作出来るようにするとか、いろいろ…
 とにかくそういうわけで、2機のソラデンもラジコンモードへと切り替わった。

 それからお父さんは試しにと、ラジコンの送信機の、右のレバーを少しだけ左右に動かした。
 すると旅客機はゆっくりと左右に翼を振った。
 どうやら2機のソラデンは、お父さんの持つ送信機でコントロール出来ているらしく、レバーの操作で2機のソラデンは互い違いに上下し、その力で旅客機の左右の翼の傾きをコントロールできるようになったんだ。
 それからお父さんは、送信機の左のレバーを前後に動かした。
 するとスワンボートが上下し、つまりそれはそのまま、旅客機の機首上げ、機首下げが出来るようになったんだ。
「なるほどね。つまり旅客機を、ラジコン飛行機にしちゃったってわけね」
 ぼくがそういうとお父さんは、
「そういうことだ。どうだすごいだろう。これは俺と茶トラ先生の合作のアイディアだ!」と言ってから、少しの間、その旅客機をラジコンで見事に操縦した。
 とにかくお父さんの持つラジコンの送信機で、ばっちり旅客機の舵が利いて、それはもう自由自在に操縦できるって感じだったんだ。

 それからすぐに、お父さんは航空無線で機長と交信した。
「機体のピッチとロールの制御はこちらでばっちり確保できた。現在とても安定している。エンジンコントロールは君に任せる。それじゃ、I hove control!」
 すると機長からすぐに返事がきた。
〈鈴木君、ほんとうにありがとう! Roger. You have control!〉

 
 旅客機SOS 完 チェック
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