未来からのメール

文字数 1,686文字

 それからしばらくして、ケイタイ無線機がぶーとダサく鳴り、それで行ってみると茶トラ先生は実験室で、例の居眠り椅子に座り、とても深刻そうな顔で手紙を読んでいた。
「これは一カ月ほど未来のわしからのタイムメールなんだ」
「ああそれ、タイムエイジマシンで送られてきたんだね」
「それでだ。実は、未来のわしからの情報によると、これから約一か月後、沢山の乗客を乗せた旅客機が墜落する」
「何だって?」
「未来のわしがメールを書いた時点でも、詳細は不明らしいが、分かっておる情報では、ある何らかの原因で突然、旅客機が操縦不能となったらしい」
「操縦不能?」
「完全にコントロール不能となったのだ。生き残っておったのはエンジンだけだ。それで旅客機は不安定な飛行を続け、残念ながら墜落という最悪の事態になった」
「そうなんだ…」
「それで、このような事故ならスワンボートと、それと補助的にソラデンも使い、操縦不能の旅客機を救助出来るのではと、未来のわしが考え、それでタイムメールを送ってきたのだ。もちろんわしも今、そう考えておる」
「じゃ、替え玉?」
「替え玉は、あのラジコン飛行場のときのように、飛行機を墜落させるからだめだろう」
「それはそうだよね」
「そしてこの航空機事故は、われわれから見れば未来の出来事であるから、何らかのミッションで、この忌まわしい未来を書き換えることは可能なのかもしれんと、もちろんわしは考えておる」
「替え玉作戦みたいにね」
「替え玉はだめだと、さっきわしは明確に言ったぞ!」
「ちがうよ。替え玉じゃないよ。替え玉作戦だよ。今ぼくは、ああいうミッション全体を指して『替え玉作戦』と呼んでいるんだ」
「そうか。なるほどな。それならわしの勘違いだ。お前さんはきちんと意味を理解しておる」
「だろう?」
「あ~、ともあれわしは、その旅客機を救助すべく、ある何らかの作戦を模索しておるのだ。もちろんその忌まわしい未来を書き換えるためだ」
「書き換えるといったって、だけどスワンボートは5人乗りだよ。操縦者以外だと、たったの4人だよ。タクシー並みじゃん。しかもソラデンは一人乗りだし。で、その旅客機、何百人もの乗客が乗っているんだろう。そんなんじゃぜんぜん間に合わないじゃん。救助している最中に、飛行機落ちちゃうよ」
「わしは乗客を救助するなどとは、一言も言っておらん」
「え~、じゃ、見殺し?」
「ちがうちがう。わしはスワンボートとソラデンを使い、旅客機そのものを救助しようと考えておるんだ」
「飛行機そのものを救助? そんなこと、出来るの?」
「それでだ。実は今回は、飛行機操縦の理論を詳しく知っておる人物の助けがどうしても必要なんだ。お前さんの知り合いに、そのような人物はおらんか?」
「飛行機の操縦に詳しい人ねえ… ええと、そんな人、ぼくの友達にいるかなあ、ええと、あ! それってぼくのお父さんじゃん」
「そうだ。もちろんわしは、最初からお前さんの親父さんに目を付けておった。ラジコン飛行機を上手に操縦しておられる」
「実はお父さん、ええと、元々は旅客機のパイロットだったんだよ。だけど、ときどき受けなければいけない航空身体検査で不合格になったとかで、それで地上の勤務に…」
「そうか…、そういう事情があったのか。そんなこと、わしは知らなかった。たしかに聞くところによると、旅客機パイロットの身体検査とは大変厳しいらしいな。わしの知るところによると、たとえば視力は裸眼で1.0が必要らしい」
「うん。厳しいらしいよ。それで、どんな理由で不合格になったのかは、お父さんもトラウマみたいであまり話さないけど、とにかくそれから地上勤務を命ぜられて、それで、『飛べないならここにいる意味はない!』なんて粋がって、あっさりと航空会社をやめたんだ。それで、今のラジコンのパイロットの仕事を始めたんだ。要するにお父さん、飛行機大好き人間だから」
「しかし今回のミッションにおいては、それは願ってもないような人材だな。よし、早速わしはミッションの準備を始めることにしよう。それにお前さんの親父さんにも、一度ここへ来てもらわんといかんな」

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