変わり果てたデビル一家1

文字数 1,824文字

 ある日ぼくは、例によって茶トラ先生の実験室で、茶トラ先生の大学の頃の「ばかたれども」の悪口を交えた、きちんとした物理学的な考察とやらのお付き合いを、律義にやっていた。

 茶トラ先生は定番のフラスココーヒーで、それでぼくも負けずに、細菌を培養するためのシャーレにプッチンプリンを入れて食べていた。(もちろんオートクレーブとかいう機械で殺菌してあるそうだ)

 そしたら突然、タイムエイジマシンのカーテンが開き、で、またまた妹が伝書鳩? と思ったら、なんと豪快に汚れたよれよれの服を着たデビルが、ふらふらと出てきた。

「い…、いったいどうしたの? 田中君」
「ええと、おれんち、破産したんだ。で、おれ、今、ホームレス」
「え~~! 何だって? で、いつから来たの?」
「3年後」
「3年後?」
「おれ、あの豪華客船のカジノで大金当てただろう。で、あれ、あのまま金受け取らずに放っておいたよな。だけどおれの父ちゃん船員だから、で、あのとき、あの船の船員さんで父ちゃんを知っている人がいて、で、38歳になった俺を父ちゃんだと思って、それで父ちゃんに連絡が来て、で、それから父ちゃん大金を手にして、そして父ちゃん、思い切り舞い上がったんだ」
「お父さんが思い切り舞い上がった?」

 それでぼくらは、デビルの詳しい事情を聞いた。
 もちろん茶トラ先生は得意の根掘り葉掘りの質問をして、デビルが陥った状況について、詳しい話を聞き出したんだ。

 それでデビルの話だと、大金を手にしたデビルのお父さんは、それからすぐに船員をやめ、田中家は豪快に裕福で贅沢な暮らしを始めたらしい。

 遠いリゾート地みたいな所へ引っ越し、大きな庭のある豪邸を買い、高級外車を何台も買い、宝石とか高級時計とか高そうな服とか、とにかくいろいろ買いまくり、それからいわゆるセレブの人たちとも付き合うようになり、高級ホテルで開かれたハーティーなんかにも、頻繁に行ったりし始めたんだ。

 それから親戚の人や知人なんかに、次々と借金を頼まれたりして、それで気前よく金を貸してあげたりもしていた。

 そして、どこから聞き付けたのか、デビルの家へ、もっともらしい投資話なんかを持ちかけるペテン師みたいな連中も、どんどん押しかけてきたらしいんだ。
 その中でも、とある企業の営業マンとやらが、デビルのお父さんに急接近した。

 その男はある日、ピンポーンとデビルの家へやって来て、庭に置いてあった外車のことや、家のことなんかを豪快にほめまくり、ほめられるとデビルのお父さんは、とても嬉しそうだったらしい。

 で、それから、外車にワックスをかけてあげたり、こんな高級家具を買うといいですよみたいなアドバイスをしたり、で、いろいろとお世辞を言われたりして、デビルのお父さんはすっかりいい気分になったらしい。

 それ以来、その男は連日のようにやってきては、家の切れた電球を脚立を使って換えてくれたり、あちこち掃除してくれたり、とにかくいろんなことで世話を受けたりしているうちに、デビルのお父さんはその男とどんどん親しくなったそうだ。

 それからデビルのお父さんは、その男とゴルフに行ったり、ゴルフ場の会員権を格安で買えるからと斡旋してもらったりして、実際に会員権を買ったり、もちろんしょっちゅう飲みにいったりもしていた。
 飲み屋ではお父さんは、一晩で何百万も使ったこともあったそうだ。
 とにかくそうして、デビルのお父さんは、すっかりその男を信用してしまったんだ。

 それから男は、「我が社でやっているリゾート開発に投資しませんか? 我が社のリゾートは高齢化社会にも対応し、子供からお年寄りまで楽しめるもので、これからどんどん伸びていく分野です。どうです? あなたの資産を10倍に増やしましょうよ。もちろん万一の場合でも、元本は我が社が責任を持って、絶対に保証しますから」とかうまいこといって、またいろいろおだてられて、ゴルフへ行って、飲みにつれて行かれて、しこたま酒を飲まされて…

 そしてとうとうデビルのお父さんは、そのリゾート開発に投資すると決めてしまい、それから少しして、その投資契約書にサインをしてしまったんだ。

 しかも何とその場で、莫大な全財産をポンとその男に現金を手渡したという。
 何という無防備な…

 で、その直後、案の定その男は速攻でドロンして、もちろんリゾート開発はカンペキなインチキ話で、そもそもその会社も、カンペキな幽霊会社だったんだ。
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