宇宙トラクタ

文字数 1,049文字

「要するに、1トンの推力を延々と発生できるエンジンを作ることだ」

 それから何日かして、ぼくが遊びに行くと、茶トラ先生はソラデンのエンジンを分解して、いろいろと思案しているようだった。

 ソラデンとはエアロバイクみたいな形で、こぐと物凄いスピードで飛ぶ。
 これは以前の話で、旅客機を救助したときなんかに大活躍したものだ。

 そして茶トラ先生は、今度はそのソラデンのエンジンを細工(魔改造)して、小惑星を加速(あるいは減速)するための動力源にするつもりみたい。


「ソラデンのエンジンの推力は最大で3トンほどある。だから1トンの推力は余裕だ」
「だけどソラデンって、ずっとこぎ続けないといけないよ。もしかしてヤス子ちゃんをその小惑星に幽閉して、百年間こがせるつもり? まあ、それもいいかもだけど」
「いやいや、いくらヤス子ちゃんが人間離れしておるとはいえ、小惑星で、しかも一人で100年もこぎ続けることなど不可能だ」
「じゃ、どうするの?」
「だから動力源は太陽電池パネルとモーターだ」
「へぇ~」
「健脚の人間が自転車をこぐパワーは300ワット程だが、ソラデンの場合、反物質的イオンエンジンの…」
「ハンブッシツって?」
「あ~、宇宙には物質と反物質とがあり、これらが融合するとすさまじいエネルギーが発生するのだが…」
「わかったわかった。いいよいいよ。その話、小学生には難しいから」
「あ~、ともあれソラデンを300ワットのパワーでこいだら3トンの推力が出る。そこが反物質イオンエンジンのすごいところなのだ」
「ええと、ややこしいブツリの話はともかく…、ええと…、そうか! じゃ100ワットで推力1トン?」
「そういう訳だ。そして一般の太陽電池パネルなら畳一枚ほどの面積で150ワットほどの電力が得られるので、その電力でモーターを回せば、効率を考慮しても100ワットくらいの出力は出せる訳だ」
「じゃ、そのモーターでソラデンのペダルを動かせば1トンくらいの力が?」
「そういう訳だ。だから構造を単純化するため、太陽電池パネルとモーターとソラデンのイオンエンジンを一体化させるのだ」
「で、そのシステムを小惑星に置いておくの? でもそれって100年ももつの」
「だから耐用年数を考慮して定期的に新品と交換すればよい」
「ところでさぁ、どうやってそんなもの小惑星に持っていくの? 今は月なんかよりずっと遠いんだろう? スワンボートで行くのも大変だし、そもそも太陽電池パネルなんかスワンボートに乗る?」
「もっとすごい輸送機関を持っておる人がいる」

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