第25話

文字数 1,185文字

「やっぱりそうか。裏切りはダメだよな。殺されても仕方ないよな。」
「シンヨウダヨ。大事ダヨ。ウラギリハ大事なシンヨウを踏みツケル最低ダヨ。世界ガ亡ビルンダ。ユルセナイ。」
信じていたものが、信じられなくなった時、世界には意味がなくなる。とでも言いたそうにリュウが話す。ワンは頷く。人殺しの凶悪ダブルドラゴンは、信用により世界が成り立っていると信じている。悪党の真剣さにダニーは、真実を見たような気がしてきた。裏切りは許されない。池上は本当に悪い奴だ。俺を、仲間であった俺を、都合が悪いからと言って、刑務所に閉じ込めたのだ。あいつは社会的に力をつけただろうから、そんなことも可能になったのだろう。務所仲間の若草さんが真実を教えてくれた。俺を評価してくれた。だったら、その評価に応えなくてはならない。正しい人、誠実な役立つ人材、それが不幸に負けてはならない。悪巧みに潰されてはならない。正義を持って、それを実行し、貫く必要がある。でないと、ただの間抜けな前科者になってしまう。そうだ、池上を殺すんだ!
ダニーは、自分のためでない、世間に役立つだろうという、自主的な行動が必要な目的を初めて持った気がした。本当は、今までもそういった目標みたいなものはあったけど、それは実行するのには現実的ではないし、目的が曖昧なものが多かった。だが、池上を殺して、裏切り者を葬ることで、世界の秩序を守るという大義名分を手に入れた。後押ししてくれる若草やダブルドラゴンがいる。この目標はダニーのものだけではない。仲間からの期待という評価が加わっている。若草やダブルドラゴンたちの期待を裏切るわけにはいかない。仲間の評価のためなら、死んだっていい。ダニーは出所してこの方、ずっと前科者という負の視線で見られていた。負の注目は、心を荒ませ、希望を奪われる。何をやってもつまらない、何をしても悪い評価にしか繋がらない。それを繰り返されると世間を恨む前に、全て諦めるしかなくなってしまう。何をやっても無駄、俺は犯罪者、ダメ人間、クソ以下。空元気で平静を装い、タフなふりをしていたが、本当は、心の底で傷ついていた。世間の冷たい評価に心が凍らされていた。だが、今は違う。承認してくれる人が三人いる。君は正義だ、正しいんだと支持してくれる人が、間違いなく三人いる。乾いてひび割れた心に、染み渡る人の評価。
誰かが見てくれていた。
誰かが心配してくれていた。
誰かが評価してくれていた。

それだけでダニーはこれまでの不甲斐ない生活が一変するような気がした。ダメじゃなかったんだ。だって、こうやって気にしてくれる仲間がいる。俺は一人ではない。一人でないと思うと、勇気が湧いてくる。なんだってやってやる。意気込みが猛る。
「ダブルドラゴン、ありがとう。俺、裏切り者を殺すよ。」
「ソレガ良い。ソウシロ。」
「死体ハナントカシテヤル。」
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