第49話

文字数 1,355文字

母親が、三十七歳のオバさんが、ひめにゃんなんてあり得ない!ひめにゃんは自分が生み出した。それを自分を生み出した女がひめにゃんになるなんて次元の輪が捻れている!賢治はひめにゃんとして振る舞う母親を想像してゾッとしたが、でも、有名になったひめにゃんが、中学一年生の暗い男だったら、ファンは怒るだろうし、評価が裏返る。炎上間違いなしで、ヒマキンたちにも迷惑がかかる。それに、自分が元々の薄暗い、人から相手にされない場所に格納されてしまう。せっかく認められたのだ。でも、それは虚実に違いない。今となってはメタバースでひめにゃんが登場すると、仮想現地人が集まるようになっているし、いいね交換で購入しただろう贈り物に溢れている。投げいいねもドンドン集まる。ひめにゃんは仮想空間、仮想現実でアイドルに成ろうとしている。仮想空間の成功は、しかし、現実によって脅かされる。本人が沢田賢治という冴えない中学生なのだ。
「私は、女の見せ方を知っているから、写真使ってもいいよ。」
「嫌だよ。ダメだよ。母さんじゃ無理だ。ババアじゃないか!」
そんな事ない。指名だって入るんだから!と沢田綾子は息子に熟女デリヘルで、中の上ぐらいにいることを誇りたかったが、そんなことは口が裂けても、死んでも言えないことは承知している。でも、自分の魅力を試してみたい。表立って目立ってみたい。
「じゃあさあ、その女の子のお姉さんって設定で、どう?」
どう?じゃねーだろ!このクソデリヘルババア!恥を知れ!と賢治は大声で怒鳴りたかったが、まだ確たる証拠がないので言うことが出来ないし、自分が事実を口に出すことによって、それが本当になってしまうことが怖かった。黙っておけば、知らないことにしておけば、事実だって、虚になるのだ。そう、メタバースのひめにゃんと一緒だ。
「まあ、私だとちょっと無理があるんだろうけど、こんだけお金になるってことは、結構流行ってるんでしょ?だとすると、人気者の女の子が、あんたみたいな男の子ってなったら、酷いことになるわよ。みんな、綺麗な娘が好きだからね。なんて言うんだっけ、あれ、ほら、キッザニアっていうんだっけ?」
「それを言うならルッキズムだよ。でも、このまま人気者でいるためには、いや、もっと人気者になるには、かわいい女の子の姿を出したほうがいいよね。」
「そりゃそうよ。可愛くなかったら、それこそチェンジされるわよ。」
綾子は言った後「しまった!」と思ったが、子供の賢治がそんな言葉を知るわけがないと平静を装った。賢治はルッキズムの真髄でもある無慈悲なチェンジシステム知るはずもなく、アメリカの大統領の演説を思い出す。「変わらないといけない!」そうだ、せっかく作り上げた「ひめこ」をこれまで以上に大きな存在にするためには、今のままではダメだ。
「とりあえず、私の画像を使って、アプリで加工して少しづつ載せるってどう?今どうやってるのか知らないけど、知らない人の写真を勝手に使ったら、色々面倒なことになるんだから。賢治、あんた、知らないでしょう?画像には肖像権ってのがあるのよ。有名になったってことは、人目に着くから、気がつく奴が出てくるわよ。目が違うとか、こんなに細くなかったとか、加工ババア・・とにかく、荒らそうとするお節介、多いからね。」
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