第15話

文字数 1,160文字

 夕方、ダニーは繁華街に立っている。仕事を終えた人の波がそっと押し寄せてくる。キャバクラや風俗店の呼び込みとしてダニーから声をかけると迷惑防止条例ということになり、捕まってしまう。だからダニーから声をかける事はない。
 「ヤベ、渋谷血祭り事件じゃん!マジでいんだ!」
 「ポン引きしてんだろ?どっか紹介しろや。」
 ダニーが立っていると、荒ぶる若者や、酔っ払いが見つけて声をかけてくる。
 ポン引きによって、通りがかりの人たちに声をかけられないが、ポン引きによって呼び込みをしないと、利益率の高い奥の店には客が来ない。だから組織は考えた。少し有名な奴を立たせよう。そうしたら声をかけられるだろうし、それが噂になれば、人が集まる。その予測は当たった。十年前の事件だが、まだ覚えている人は多かった。
・死体遺棄
・年金不正受給
・殺人事件関与
・渋谷での無差別殺人容疑
と様々な犯罪に関わり逮捕された茶谷雄介だったが、死体遺棄は看護していた祖父を残して外出しただけであり、年金不正受給も祖父が死んだ後に年金を一度だけ取りに行っただけであり、殺人事件関与に関しては、主催した「消費者団」の中での内紛で、命を狙われただけであり、渋谷の無差別殺人容疑に関しても、実行前に逮捕されている。ただ、捕まった際に誤って自身を包丁で切ってしまい、血塗れで逮捕された衝撃映像が全国に流れてしまっただけであった。懲役十年は少し長いように思われたが、ダニーは控訴することもなく十年の服役に準じた。
 「おい、ダニー、俺を殺してみろよ!包丁でさ、ぶっ刺してみろよ!」
 酔った勢いで荒ぶる大学生が胸をバンバン叩きながらダニーを挑発する。ダニーはぶっ刺してやるよ!と思いながらも、酔って荒ぶる大学生集団にボコボコにされる事も考えて、胃から競り上がるものをグッと飲み込んで、
 「お兄さんたちには、敵いませんよー、それより、イキリ昂ったのを落ち着かせるのに、いい店知っていますよ!おっぱい触りたい?それとも抜き有り?着いてくれば、捌け口は、なんでもありますよ!」
 笑顔で媚びへつらうダニー。大学生たちは、小学生の頃テレビで見た、血塗れの有名犯罪者に、お客様と扱われて、何か、特別な評価を得たように錯覚する。有名人には価値がある。それは良い事であれば敬意を集めるだろうし、悪い事であれば、見る側に正義感を鼓舞させる。悪者をコントロール下に置く事で、何もしてないが、何か、正義を実行したような気になるし、有名な悪者が、媚びへつらってくるのは、正直、自分の世間からの相対評価が上がったように錯覚してしまう。直径十キロメートルでしか評価されない普通の人が、直径三千八百キロメートルで知られる悪者を成敗したような気持ちよさ。
 「おう、ダニー、連れて行けや!飲みてえな、おっぱい片手に!」
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