第48話

文字数 1,193文字

変えたいという気分は、行動になって現れる。ひめにゃんちゃんねるは動画を連発した。見てもらえるのならと、急いで創っては公開の連続を行う。それと同時に「いいね」活動にも余念がない。自分で選んだものを若草にメールで報告して、それが良いものか判断してもらう。ゴーサインが出たらレビューを書いて「いいね」を連発する。すると「いいね」された側も「いいね」をお返ししてくる。賢治はその流れは自分のような選ばれた人がしていると思っているが、それにしても「いいね」の増殖の速さに驚いている。それだけ自分に影響力が出てきたと実感するが、実際のところは、いいねインベスターズによって「いいね」の交換がAIで自動に行われているだけだった。作動のきっかけが人間で、その後の漏れのない辻褄合わせをAIが行なっている。安全運転補助システムのようなものが働いていて、危険な自分物や、厄介な事案に対しては、知らぬ間に補正がかかる。高速道路でハンドルが勝手に曲がり、追突しないように一定の距離を保つクルーズコントロールが効いているように、事故が起きないように「いいね」とレビューが取り交わされている。
二週間後、賢治のところにユーチューブの楯が送られてきた。チャンネル登録者が百万人を超えたのだった。広告収入に関しても支払われたが、エージェント福太郎を通して支払われるようになっていた。中学生である賢治は、よくわからないお金をことを顔を知っている若草たちがしてくれていると感謝した。明細にはきちんと手数料の項目があり、十五パーセントほど引かれてはいたが、賢治にとっては大金だった。それに気がついたの通帳を管理している母親の沢田綾子だった。
「ねえ、賢治、あんた、動画で収入を得てるの?」
「・・うん、そうだよ。」
「結構な金額だけど、これ、ずっと続くの?」
「たぶん、続く。」
「ふーん。」
「・・お母さん、生活費に使ってもいいよ。」
沢田綾子は、一瞬戸惑う。賢治の稼ぎで生活できるのなら、呼ばれた先の玄関開けて「なんだ!ババアじゃねーか!ほうれい線は萎える!チェンジだ!」なんて、酷いことを言われることも無くなる。
「少し使わせてもらうわ。お母さん、正直助かる。もう、今の仕事嫌なのよ。」
簡単に稼げる方法として選んだ出張風俗だったが、四十近くになると、辛いことが多い。しかし、一度、そういった仕事を選んでしまったら、コンビニで一日中立っていたり、ベルトコンベアで流れてくるものをどうにかする仕事は出来なくなってしまう。
「賢治、あんたが作った動画、見たいんだけど。」
「やめといたほうがいいよ。アニメとかだから。それに、動画では、僕は女の子なんだ。」
「へえ、賢治は女のフリして、動画してるんだ。ふふふ、おもしろいね。」
綾子が笑うと、賢治も笑った。この家で、ここ数年で一番いい時間が流れた。
「その、女の役、私がしてもいいよ。人気者なんでしょ?」
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