第39話

文字数 1,338文字

「秘密は守られるんですよね?」
「当たり前じゃないですか!芦田さんは上位顧客になる訳ですから、どんどん利用してもらって構いませんよ。我々にとって大事なのは、お客様の満足、笑顔ではなく、継続的な売り上げですから!芦田さんは、売上より、お金より、視聴者の満足、笑顔、評価が大事ですから、我々とは対極にいますよね。我々は信用における評価は必要ですが、それ以上の評価は必要としておりません。」
芦田は若草の快活な説明に誠実さを感じた。お客様の満足、笑顔、評価のためなら、という企業の嘘が嫌いだった。生活のためにお金が欲しいから、サービスしているというのが本当なのに、それを綺麗事で隠す。その不誠実さが大嫌いで、会社勤めをせずに、ユーチューバーという可能性、評価にお金がついてくる選択をしたのだ。自分で面白いことを広めて、子供たちが喜びそうなことをして、その評価で収入を得るところまで持っていくと決めて行動した。だが、その評価に自分が閉じ込められるなんて考えもしなかった。
「でも、芦田さんも大変ですよね。面白くて、誠実で、いい人というイメージが染み付いて、普通の人が気軽にしたいことが出来ない。たまには、こういった息抜きも必要になってきますよね。でも、気を抜くと、動画の質が落ちると、評価が下がってしまう恐れがある。大変なストレスを抱えているんだろうなあ、って。」
「そ、そうなんですよ。僕は一生懸命にして、そりゃ、評価も得たけど、人気って、油断すると、すぐに反転するんですよ。そのためには、したいことも我慢して、望まれる人でいないといけない。こんなこと、会って初めての人に言うことではないんですけど、もう我慢できない。僕は人間なんだ。欲望はあるんだ。女も抱きたいし、人の悪口だって言いたい。楽して生活したい。もう少し攻めた内容の大人向けの動画だって作りたい。でも、キャラクターが決まって、それで評価を集めるようになったから、変えるわけには行かないんだ!お金持ちがお金が増やしたり節約するのと一緒で、これだけ増えた評価を手放したくないし、もっと増やしたいとさえ思っている。いいね!が欲しい、減らしたくない。でも、自分らしく生きたいんだ。」
「そうですか、それならお力になれると思うんです。お金は、運用して増やすことが出来ます。投資ですね。私は、評価でも、その運用が出来ると思っています。ヒマキン、君が持っている評価を、生かしてみないか?減ることは決してない。増えることは、もう、間違いない。投資と一緒で、お金がお金を産むように、いいねがいいねを呼ぶ仕組みを今作っているんだ。預けてくれるだけで、あとは、増えるようにしておく。我々、いいねインベスターズに任せて貰えば、動画の頻度が落ちても、評価は減らないし、知らない間に増えて行く。まだ始まってないから、今、初めてしまえば、君は、もう、ぶっちぎりだ。いいねキング間違いなしだ。一つ、やってみないか?」
突然の若草の申し出に、ヒマキンは少し狼狽えて、でも、若草の言葉に希望のようなものを感じた。お金が知らない間に増えて行くように、いいねが知らない間に増えて行く。それを一番初めにする。万全だ。芦田宏明はヒマキンとなって、顎を突き出し変な顔をしてみた。
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