第21話

文字数 1,243文字

ダニーは若草に感謝した。何をしてもらったわけでもない、ただ、良い評価をしてもらっただけなのだが、それが、ダニーにとって、ずっと欲しかったもののように思えた。人に認められたことがない、評価外に追いやられていたけど、それどころか、悪い評価で有名になり、それに乗っかっていたのに、まともに評価されると、嬉しくて仕方がない。そこに出てきたばかりの日差しがさしてくる。ダニーの顔が照らされ、体温より高い温度を感じる。光の輪を潜るような感触がある。目の前の若草には黄金の光が差している。自身の熱の上昇と、神々しく見える若草。幸福感に包まれたように感じる。
「ダニー、君は頑張ってきたんだよ。でも、ちょっとついてなかったんだ。必要以上に刑務所に入ることになったからね。でも、それは本当だろうか?」
若草が何か知っているような素振りをして、ダニーに問いかける。ダニーは何のことだかわからないが、何かあるのだろうか?と気になり出した。疑惑は興味を呼び、興味は頭の中をすぐに支配する。どういうことだ?模範囚であった自分が、きっちり十年勤め上げた。その十年をみんなは「なんで俺より長いんだ?」って言っていた。重なったからだと、スケープゴートにされたからだと、思うようにしていた。同時に、外に出たくないというのもあった。あのまま優良な消費者として、補助金、年金で、ただ生きてているだけを繰り返して行くのと、悪い連中に囲まれて、何かすることがあって、監視されて、飼い慣らされるように生きながらえるのも、ひとりぼっちにならないで済むから、そんなに悪いとは思わなかった。制約があるけど、できる範囲での自由で、孤独に生活する意味は、どこにもないということを、真逆の生活、制約と監視により、よりハッキリと理解することができた。たった一人、誰からも期待されないよりは、刑務官に好ましいやつと評価された方が、自分が世界にいることが感じられた。
そう、目立ちたくはないが、誰かに見られている。
誰かに評価されている。
無視されてて、誰からも相手にされないよりか、ずっとマシだ。
 ダニーは、刑務所にいた時間は、そんなに悪くなかったと思ったが、しかし、自分を評価してくれる若草が、刑務所にいたことが辛いというのなら、それは辛いと思った方が、若草に近づけるのではないかと思い、刑務所に長くいたことを、辛い思い出に変えて行く努力をした。ダニーは若草の影響力の範囲内に捕まっていた。
 「そりゃあ、わしが、無駄になごうつかまっとったってことかいね。」
 ダニーは独り言の時に出る郷土の言葉を口にした。すっかり油断していたのだ。若草はそれを見逃さない。
「君と知り合いだと分かるとまずいと思った人がいたんだ。そいつがね、裏で手を回して、ダニー、君の刑期を伸ばしたんだ。君は、邪魔だからって、刑務所に閉じ込められたんだ。それは許されることだと思うかい?」
 ダニーは、若草とのここまでの会話を思い出す。ハッと気がつく。
「池上が、池上がわしを閉じ込めたんか!」
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