第24話

文字数 1,115文字

ダニーはダブルドラゴンにお茶を出し、自分も用意されたライスチキンを食べ始めた。胡椒と生姜が効いた焼いた鳥肉が、薄茶色い薬草の匂いがする炊き込みご飯の上に乗っている。酸っぱいタレがまぶしてある。歯磨きをしながら鶏肉を食べているように感じもするが、酸味とスパイスが食をすすめる。でも、これなら、親子丼か、ケチャップが効いたチキンライスを食べた方がいい気もする。
「リュウ、昨日も用心棒?」
「ソウ、タオシタヨ。5人。」
「どうやって?」
「殴っテ、フンズケテ、壊した。」
リュウは、感情の起伏なしで、平たくダニーに答えた。「壊した」だけはネイティブな日本語のように聞こえた。もしかして「殺した」と言ったのを「壊した」と聞いたのかもしれない。確認したいが、他人の殺人に関わるとロクなことがないから、黙っていようと思った。
「壊したジャナイ、コロした。」
黙っていたワンが不意に声を出す。その声は暗闇からひょっこり出た野獣のような恐ろしさと違和感があった。空気が硬直したかのように思えたが、リュウは首を少しのけぞらせただけで、間違いを認めた。ダブルドラゴンにとっては、人殺しは日常のようだった。
「でもさ、殺した後が大変だろう?どうやって隠すんだ?」
「ダニー、オマエ、ポリス?」
「違うよ。ポリスに捕まった人だよ。」
ダブルドラゴンがここで笑い出す。何がおかしいか解らなかったが、ダニーも合わせて笑う。ダニーはダブルドラゴンたちと、ここに来て初めて意思疎通が出来たような気がした。
「ダニーがポリスナラ、オレタチ、モウ、タイホダネ。」
「ダニーカラナラ、ニゲレルよ。ダニーはネムルカら。」
ダブルドラゴンが筋肉を揺らしながら笑う。揶揄っているのか、親密な物言いなのかは理解できなかったが、少なくとも敵とは思われてないし、思ったより親しく思われていたことは分かった。ダブルドラゴンは、自分を一定の評価をしている。それがわかると、ダニーは自分の住む世界が少し広がった気がした。
「相談があるんだ。俺は十年も刑務所にいなくても良かったんだが、友達と思っていた男に裏切られて、長い間、刑務所に閉じ込められたんだ。俺は、お前たちが思うほど悪い人間ではない。怖い人間でもない。」
ダニーが真剣に話し始めると、ダブルドラゴンたちは、表情を変えて話を聞くことに集中した。二人は顔を見合わせて、眉を顰めると、ダニーの方を向いた。
「ダニー、裏切り者、コロシテモ、イインダヨ。ジャナイト、セカイガホロブ。」
「ソウダ、裏切り者、ユルサナイ。」
人殺しの悪党が裏切り者を許してはならないと主張すると、ダニーは、裏切り者を殺すのは、全く悪くないのでは?裏切り者を捌くのは正義では?と思い始めていた。
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