第40話

文字数 1,262文字

小さな傘

ヒマキンはいつものように毎日動画を作っていた。これまでとの違いといえば、週に一回のパラダイスタイムができたこと。午後から夜中まで、世間では知られない場所で、濡れた女たちに全身でまとわりついている。おかげで精神的に安定して、動画も品質は一定、しかし、微妙に面白く無くなってきた。これまでの隠しきれない狂気がないのだ。しかし、チャンネル登録者や「いいね」は減るどころか、ますます好調。「いいね」が多いと、見てる人たちも、勝ち馬に乗りたいのか、なんとも思わなくても「いいね」を押してしまう。流動的なものは集まるところがあれば勝手に集まるのだ。雨粒は水溜りになり、川に流れ、海に広がる。お金は金持ちに引き寄せられ、つぎつぎとお金を引き寄せる。評価は、評価を呼び、その評価を大きくして行く。評価に関しては放っておいても、真価があれば自然と集まるものだが、真価がなければ評価を集める仕組みが必要となってくる。
SNSで登録者を増やす場合。誰も見たことないものを作るか、興味深いものを探してくるか、「チャンネル登録おねがいします!」「よかったら「いいね」お願いします。」の呼びかけぐらいしかない。一部の抜きん出た表現者、探索者は放っておいても、それなりに「いいね」が集まる。その評価を見て、興味をばら撒き、さらなる閲覧者、ファンが増えて行く。だが、SNSの表現者が莫大に増えすぎたせいで、せっかく面白いものでも、評価が無い者が発表しても誰も見ない。
表現者として小さな存在が、みんなに見つけてもらう一番早い方法は、大きな評価を持っているものから評価されることだ。評価の化け物であるヒマキンが、ここ最近、誰にも相手にされていない動画を作っている人たちをチェックして、光るものがあればチェンネル登録をして「いいね」を押している。これは、小さな存在のユーチューバーたちを歓喜させた。あの動画の巨人が、超人気者が、俺を、俺の動画を認めてくれる!チャンネル登録された小さな存在たちはヒマキンにお返しのいいね、登録、拡散、良い評価を全力で行う。一つの「いいね」が、百の「いいね」になってヒマキンに戻ってくる。常勝のトレード、一方的な肥満。ヒマキンはどれだけ沢山の動画をみているのだろうか?あの人は、自分のことだけでなく、動画界隈を盛り上げようと獅子奮迅の活躍をしている!世間からの善人、聖人としての評価が爆上がりしている。

「AIって便利ですよね。」
「寧ちゃん、その通りだよ。不道徳ではない、適切な画面の構成比、程よい時間、それなりの評価、これまでの人気があった動画との類似点。そういった条件で動画を見つけて、ヒマキンとして、評価をしてくれる。コメントさえ入れるんだ。人間の記憶間違いもなく、辻褄合わせだって完璧だ。池ちゃんに準備してもらったけど、これは便利だ。おかげでリターンいいねが山ほど舞い込んでくる。」
「エージェント福太郎にも勝手に「登録者」「いいね」が入る仕組みって、面白いですよね。小判鮫が、そこらへんの大型魚より大きくなれるなんて。」
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