第58話

文字数 1,406文字

価値交換以外のいいね!の運用としては、いいねを持っていることの可視化として、百万いいねで、いいねステッカー、五百万いいねでいいねTシャツ、八億いいねで、いいねスーパーカーと、いいねの公認の目印のようなものを作った。これは案外、分かりやすくて評判が良かった。いいねTシャツを着て街を歩けば、知らない人でも、評価が多い人だろうと、すぐにスマホで調べるし、その「いいね」の根拠となる創作物を見てもらえる。すると、いいね!が増えていく。それがいいね持ちにとっては自分が特別な存在であると自覚できる至福の喜びとなっているし、それに憧れる人も増えてきた。それぞれが発信し、自己表現に切磋琢磨し、広告のお金に塗れてない状態で評価してもらえる。それに喜びを感じている人も多い。世間に承認されることによって、存在の評価が上がっていくことが、人生の目標となっている人も多い。物質的に豊かなことは、もう、どうだってよくて、世間に広く認められることが、存在の意味だと思う人が増えてきた。いや、潜在的にいたのかもしれない。
また、身近な人を評価して、それを広めたいという欲求を持った人、ファンとしての喜びを追う人も案外多い。自分が評価したものが、世間に広まっていく様子を見て、評価眼への自信を深め、自分が良いと思った価値が、広まっていくことにより、自己評価が上がっていくと錯覚して、それを喜ぶ。推しが世間に認められたことで、価値感、世界観が世に認められたような高揚感を持つ。
応援は心地よい。仲間である応援者が増えることで、自分の存在が、誤魔化されると同時に、世界に認められた大きな意志となるような気持ちの良い錯覚がある。声を張って、自分の思いを勝手に他人に載せるんだ!だから「いいね!」は増え続ける。いいねを支える人が大勢いる。その大勢は、応援した他人が、いいねを上手に纏ってくれれば、幸せだ。いいねは祝福の意思と言っても過言ではない。
池上は、いいねの成り立ち、価値を若草とヒマキンにして、大いに納得してもらい「いいね!」と評価してもらいたかった。その上での、いいねのレートをあげる話し合いをしたかった。でも、二人ともそんなことに興味がないように見えた。ヒマキンは自分のいいねさえ増えればそれでいいと思っている。増えて安心したいというところまで来ている。減ったら絶望するに違いない。せっかく「いいね」が価値交換に使えるようになっても、ヒマキンは「いいね」を減らすことなんて絶対にしないだろう。若草は「いいね」が増えたところで、何かを表現しているわけでもないから、本当にどうでもいいと思っているように見える。ただ、いいねの価値交換には興味があるように見える。エージェント福太郎は、いいねの貸付や、投資をしている。伸びそうな人には「いいね」を与えて、有名になって、自分でいいねを稼げるようになったら、増加分のいいねをリターンさせたり、今ひとつ注目されてない人には「いいね」を貸しつけて、いいね利子をとったりして、いいねを運用している。エージェント福太郎の「いいね」は実のところ、ヒマキンの「いいね」を超えているが、若草はそのことをヒマキンに言わないし、池上にも口止めしている。ヒマキンはそのことを知ると複雑な感情が露わになるに違いないし、いいねインベスターズから離れていくことも考えられるので、秘密にしておくことが良いだろうと池上は思っていた。
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