第34話

文字数 1,349文字

「それが普通だと思います。明らかにみんなと違う人間は理解できませんから。」
「まあ、そうするよね。僕だって気味が悪いからそうするよ。でも、これって、さっき僕が言った評価本意制度そのものになるよね?」
人に否定していることを自分に肯定しているという矛盾を突かれた寧は黙り込むしかなかった。見た目や感覚で、良い悪いの評価をして、他人との距離を調整している。良い評価なら範囲内になるが、悪い評価なら範囲外、関わらない。選択と取捨を自分の評価によって行うのは当たり前のことだ。その当たり前を数値化して、判りやすくしようというのが評価本意制度の考えの一つであれば、誰しもがすぐ馴染むに違いないし、すでに世の中では、それは施行されている。レビューを見て購入する店を決めたり、偏差値を見て進学する学校を決めるのと一緒だ。不特定多数の「いいね!」を判断基準にしている世界はすでにあるのだ。そこに生きているのだ。
「今のSNSで行われていることを、そのまま、お金とすり替えるって、ことですか?」
「そうです。寧さん、若草さんと一緒にいたからそれは、もう前提になっていると思っていたけど、違ったの?」
馬鹿にされたように寧は感じたが、返す言葉が見つからない。どこかで若草さんの冗談だと思っていたけど、あの人は本気で、それに付き合おうとする人を見つけたという事実を目の前に突きつけられた。寧は、自分に覚悟のようなものがなかったことに、今更ながら気がついた。若草と池上は、評価によって、生きられる人と、消えるべき人の選別を行うつもりなのだ。三日間の話し合いは、つまり、人間の選別の条件の考察だったのだ。
「二人で、とんでもないことをしようとしているんですね。」
「今更何を言っているんですか?評価されるべきちゃんとした人間が、その評価に応じた安心できる豊かな生活をするべきなんですよ。お金だけを持っている好ましくない人や、悪い人たちが、豊かな生活をしていることが間違いなんですよ。評価が低い程度の悪い人間は泥水を啜って、寒さに震え、飢えに追い立てられる生活を送ればいいんですよ。経済とは、人を救うべきものなんです。それをお金で経済を成り立たせようとするから、こうなったんだ。消費することや、生産が全てで、人はお金を使う、お金を稼ぐだけに振り回されてしまう。僕は、評価を利用して、幸せな人を増やした。それをもっと広く社会に広めたいと思っている。世界を変えたいんだ。そのためには、評価がいるんだ。大きな評価を持って、世界を動かす影響力を持たないと、価値観を変えるようなことは出来ない。せっかくの良い考えも、知らない誰かが誰も見ないSNSで発信するのと、みんなが良いと思っている人が公で言うのでは、全く意味あいが違ってくる。まずは台本を作り、影響力がある人間に言わせるのだ。気味が悪い緑色遺伝子男ではない、誰からも好かれる有名男に発信させるんだ。でも、ただ、好かれているだけではダメだ。苦労も知ったバックストーリーが要る。緑色遺伝子男の息子ぐらいの存在なら面白いかも知れない。息子は普通の肌色で、でも、差別された親を持って、世の中の悲劇を知ってて、同情してもらえる部分がある。裏切らない誠実さを育んでいる。そういった人を作らないといけない。」
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