第13話

文字数 1,117文字

 「それで、若草さん、僕は何をすればいいんですか?」
 池上は支持を仰ぐように従順な質問をした。若草は表情を変えることなく池上を見返す。
 「池ちゃん、それは、分かっているだろう?」
試されているのか?と池上は思いながらも、時間をかけずに確認に入る。
 「集めた評価を元に、評価の銀行みたいなものを作って、評価を流通させるってことですか?」
 若草は池原の返答に少しだけ固まったように動きを止めて、体を少し後ろに遠ざけて、表情を緩めながら眉尻を下げた。
 「池ちゃん、それ、似ているけど、ちょっと違うんだ。それに、そんな重要な話を、こんな街のカフェでするわけにはいかない。誰が聞いているか分からないからね。アイデアって、形にならないと、盗みやすいんだ。今日はこのぐらいにしよう。あんまり急ぐと、追い越すからね。」
 「何を追い越すんです?」
 「時代を追い越してしまうんだ。あんまり先を急ぐと、理解できない人に壊されてしまう。いきなりの見たことも聞いたこともない新しいシステムでは、誰も見向きもしないんだ。新しいことを広げるには、ちょっとした予告がいる。それを潜在的に広めて、そのアイデアの理解がすぐ出来るように、大衆に対してタネを撒かないといけない。それを含めたお願いになるね。それに、雨は止んだようだ。もうそろそろ次のところに行かないといけない。じゃあ、また会おう。」
 若草は笑みを浮かべて不意に立ち上がり、店から出て行った。
 「忘れているよ。若草さん、いつも傘を忘れるのよね。」
 「僕が届けましょうか?」
 「去り際に追いかけられるの、若草さん嫌うから、放っておけばいいですよ。」
 池上と寧は向かい合って座っている。中心人物がいなくなった後、よく知らない二人は、会話の糸口を探すようなマネをしないといけなくなった。
 「池上さん、私は感謝していますよ。実生活がほんと、ダメになって、追い詰められて、諦めた時に、ずっと好きだったマキノにスターアイランドシステムで会えて、救われたんです。」
 「ああ、そうなんですか、それは良かったです。音楽やっている人たちは、曲が売れて、それで終わりだけど、本当は、生み出された音楽が、売れた以上に長いことファンにとって価値を持っているってことを何とかしたかったんです。マキノさんのファンでしたか。そうでしたか。彼の売れた曲って、ほら、あれですよね?」
 寧は池上が話を合わせようとしてくれているところに良い評価をしたかったが、マキノの曲を知ってなくて、それを誤魔化そうと、こちらに聞いてくるところにイライラした。本当は、曲なんてどうでもよくて、金儲けがしたかっただけじゃないのか?
「マキノの代表曲、「雨上がり」です。」
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