第62話

文字数 1,133文字

「ダニーを利用したいのは、俺だけじゃ無いんだよ。最初に目をつけたのは、笹崎さんだけどね。」
「まあな、知名度と、行動履歴と、性格があれなら、使いやすい。でも、だから守ってやろうと思っていたんだ。どうも不器用だからな、気の毒だろ?」
「そうだね。ちょっとだけ賢いけど、最後まで考えない。それに、世間に何か期待しているからね。加えて自分は無原罪と思っていて、一段上にいたがる。だから空回るんだ。」
「若草さん、手厳しいね。まあ、そうだけど。で、何をダニーに頼んだのさ?」
「殺人。」
「無茶苦茶だな。それは無理がある。でも、あいつならやり遂げるかもしれん。なにしろ冗談が通じないからな。」
「いや、冗談のつもりはないよ。まあ、ダニーは殺す相手がどこにいるかさえ知らないから、どうしようもないだろうけど。でも、仕掛けにはなる。」
「面倒な仕掛けだな。だからあいつ殺気立っていたんだな。ポン引きなんて無理なオーラだしていたからな。それ、俺の商売にとっては迷惑だよ。」
「いいじゃないか、大口の固定客が着いたんだから。それに、ダニーも目的がないと、無駄に人生過ごす事になる。ここ最近は生き生きしていただろう?あいつは目的を持たないことを目的にして生きていたから、目的を持してやったんだ。それが、俺にとっても都合がいい安全装置になっている。」
「都合のいい理屈だな。で、若草さん、あんたの敵は誰なんだ?」
「はっきりとは分からないけど、でかい相手だ。俺を潰そうとしている。」
「ふーん。もしかして、前に刑務所に入っていたのも、そんな感じか?」
「面白いこと考えたら、やってみたくなるだろう?会社員では出来ないことだったから、色々準備していたんだけど、それに気がつく奴がいるんだ。覚えのない犯罪をしたことにされた。組織に属すると、すぐに尻尾を掴まれる。だから、今回は組織を利用しないつもりだったんだけど、まあ、一からするより、利用できるものは利用した方が、結果が早い。」
笹崎はグラスに残った焼酎を飲み干すと立ち上がる。若草は少し残念そうな顔をする。
「まあ、たぶん、とんでもないこと考えているんだろうけど、俺にはついて行けそうにない。とにかく、ダニーが無事ならいいや。でも、早く頼み事をキャンセルしてやれよ。なんかさ、不器用な奴が、不器用に立ち回っているの、見ていて辛いからな。」
「そうだな。今度あったら、そう言っとくよ。間違いだった、あれは無し、ごめんねって。」
「随分と軽いな。」
「重く言ったところで内容は変わらないよ。」
若草も残りの酒を飲み干すと立ち上がった。なんとなく、二人は二度と会うことがないだろうと感じた。
「じゃあね、若草さん。元気でね。」
「そっちこそ、元気で!笹崎さん、色々と楽しかったよ。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み