第53話

文字数 1,265文字

様々な煮込み

「なんか「いいね」が資産扱いになってるらしいけど、これは、国家とか税とか関係ないところでの話になっているらしいね。国家にカウントされない資産はGDPとか関係ないってことになるから、もったいないね。国の評価が上がらないし。なんとか取り込めないかな?」
国会に向かう車の中で柄澤総理が、曇った表情で秘書の田代に問いかける。実業家の頃から秘書をしている田代は、柄澤の面倒な好奇心が始まったことにウンザリした。「国家で一番の立場になったのだから、もう十分でしょ?」と言いたくなったが、言い出したら聞かない。おそらく、評価で競争があるのなら、そこに参加して勝ちたいとか、自惚れ承認欲求が疼いているのだろう。「クソ人間足るを知れ!」と嗜めたい。
「これ、あれか、あいつが絡んでるぞ。池上だ。絵描きを応援した中にいたぞ。いいね合戦で俺が善戦したけど、絵描きにチートさせた奴だ。クソ、なんかムカつくな。人気が資産ってのは、俺が体現してるけど、でも、実際に価値交換できるものにするって、これ、国家反逆罪だな。」
「しかし、総理、すでに流通されている「いいね」を使用停止すると、資産凍結、もしくは資産没収になるので、国民からの支持率が間違いなく下がります。」
「そりゃ、そうだよな。でも、国家が絡まない認めない価値の流通を許してしまうと、国家が破綻するんじゃないのか?円の価値が無くなって、いいねが民間で勝手に増やされ流通することになるんだ。そうなると、国家に威厳がなくなる。俺の価値が減る。税金が入らなくなる。公務員に給料を払えなくなる。とにかく、滅亡に向かうことになる。そうなると、俺が困る。」
「考えすぎですよ。いくら「いいね」が多くても、人気が資産扱いになるなんてことはないですよ。だって「いいね」に、なんの価値根拠もないんですよ。ただの承認欲求っていう自己満足の目盛りじゃないですか。」
「田代、お前は俺の何を見てきた?承認欲求が努力を産んで、価値を作り出し、周りを巻き込んでいくんだ。そうして、発信者は影響力を持つことができる。人を動かすことができるんだ。お金はそれを誤魔化すための道具だったのに、それを掘り返そうとする奴がいるんだ。独裁者、支配者、王様の理由をみんな隠そうとしているのに、それを常識に変えようとしているんだ。池上がそんなことを考えているとは思えないが、裏にいるぞ、とんでもないことを考えている奴が。田代、すぐ調べてくれ。で、必要があれば、消せ。これは国家という仕組みを壊そうとしている活動だ。俺は、評価がすごい力、影響力をもっていることを誰よりも知っている。だから、これは、勝手にされたら、世界が変わってしまう。いや、誰でも変えることができる状況を作ることになる。」
田代は、柄澤がいうことが理解できなかった。何を言っているんだろう?いいねが多ければ、支配ができるとか、王様と同じだとか、幼稚な考えにしか思えない。だいたい私は沢山お金をもらえるから秘書をしてるのであって、柄澤という男を「いいね」と思っているわけではない。
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