第23話

文字数 1,065文字

俺は汚れ事はなんだってやってきた。
ポン引き、年金不正受給、死体遺棄、引きこもり、生活保護で風俗通い。でも、殺人はした事がない。しようとしたけど、自傷行為に終わったんだ。やりかけたことは、しないと、自分に成れないのか?成功した、俺を閉じ込めた、あいつを殺さんといかんのんか?殺さんと、自分に成れんのか?俺は俺で無くてはならない。みじめな前科者は、この先、たぶん、何も幸せなことはないだろう。だったら、せめて、自分に成ろうと努力しないといけない。

若草はとっくに去った。ダニーは弱々しい朝日を浴びながら、閑散としたまだ眠っている街を徘徊する。頭の中は、考え事でストレスに塗れている。

池上を殺さないといけない。池上が刑務所に閉じ込めた。邪魔だから閉じ込めた。知り合いであることが恥ずかしいから閉じ込めた。
池上め、何様だ!
池上は一人では何もできない小心者だった。主催する消費者団に招いた時も、ガチガチに緊張していた。可愛いやつだった。なのに、居場所を与えてやった俺を、閉じ込めやがった。その上、成功しやがった。世間から無視されていた奴が、良い評価をされるようになったんだ。ほっといても、お金が手に入る。惨めな思いをせずに、欲しいものが買えるんだ。国家からせしめた金じゃ無く、存在に払われる報酬で、お金を手にすることができる。あの、池上が、俺より下の池上が、図体ばかりの小心者が、無駄に賢い役立たずのインテリデブが、世間から並以上の評価を得ている!それは、どう考えたった、俺に対する嫌がらせに他ならない!

ダニーは、どこかに行こうとしたが、結果として、同居人たちが待つ薄暗いマンションの一室の玄関前に立っていた。ダニーにとっての戻る場所は、ここしかないのだ。
「オカエリナシャイ。」
薄暗い玄関、目と歯だけが異様に白く目立つスシローが出かける支度をしていた。スシローは店舗の清掃をする。飲みかけのビールを捨てて、食べかすを袋に詰め込み、生温かさが残る丸まったシーツをリネン袋に詰め込んで、床に落ちたコンドームを拾わなくてはならない。何かを考えたら負けになるような仕事をしないといけない。
「ダニー、ゴハンアルヨ。ライスチキン。」
スシローは扉の外に出て行った。リビングに入るとリュウとワンが上半身裸で平皿の茶色いご飯の上に鶏肉が乗ったものを箸で食べていた。
「おはよう、ダブルドラゴン。」
「オハヨごぜます。ダニー。」
リュウが顔を上げて返事をしたが、ワンは黙ってライスチキンを食べている。ダニーは冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注いで二人に出してあげた。
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