第46話

文字数 1,367文字

にこやかな若草、穏やかなヒマキン、麗しの寧、三人が賢治に注目している。学校では無視され、ひめことしてネットではそれなりに注目を集めていたが、現実の世界で、感じ良い人たちに承認され、さらには仲間にならないかと招待されている。賢治は単純に幸福感を感じていた。僕はここにいるし、知った人に、ちゃんと見てもらっている。
「ありがとございます。よろしくお願いします。」
「はははは、でも、賢ちゃん、内容も聞かずに承認すると、簡単に騙されちゃうぞ。」
若草は許容力一杯で賢治を受け止める。賢治は感情を露わにすることは、普段ないし、それを受け止められてこともなかった。だから、若草のことを無条件に信頼した。
「最近は発信者が増えて、SNSも渋滞気味だよね。せっかく何かをアップしても、埋もれてしまうんだ。ヒマキンと我々は、それは良くないと思っていて、何か良さがある人は盛り上げていきたいと思っているんだ。でも中身がない人に「いいね」が集中するとサイトと「いいね」の信用が無くなってしまう。悪貨良貨を駆逐するって言葉知ってる?これはね、表現の場、各SNSの品質を守るための活動なんだ。ひめにゃんちゃんねるは、よく考えられているけど、興味深い内容なんだけど、閑散としていたよね。でも、ヒマキンから評価をもらって、いまではチャンネル登録者が十万人を超えた。ひめこの発信する情報に興味がある人が膨大になったんだよ。評価されるべく人が、評価される状況を作り出したんだ。でもね、それをヒマキンがリーダーとなってするには、ちょっと大変なんだ。ヒマキンは自分の動画も作らないといけないからね。だから、今回、ヒマキンプロデュースとして、沢山の分身を作ることにしたんだ。ヒマキンが認めた発信者が、ヒマキンが行ったように、君のような優れた発信者を見つけ、評価をして、良い評価の流れを作りたいんだ。だが、これは容易いことではない。評価を得て、影響力を持つためには、それなりのモノを作って行かなきゃならない。駄作ばかりの人が上から目線の評価したって、説得力がないからね。だが、ひめちゃんねるは、ヒマキンが認めただけあって、なかなか良くできている。君は期待されているんだ。」
快活で歯切れの良い若草の長い説明。明瞭な雰囲気はあるが、中身はさっぱり見えてこない。だが、賢治は雰囲気に飲まれていた。自分は特別選ばれた、非常に高い評価を得たと、気分が高揚していた。
「沢田賢治くん、僕の仲間として、ユーチューブを一緒に盛り上げていこう。へんな動画をみんなに見せないようにして、楽しい動画で溢れる場所にしよう。よろしくね。」
ヒマキンが真剣な眼差しで賢治に声をかけた。心にアンカーを打たれた。これで賢治は絶対的なヒマキン支配下に入り込むことになる。
ファンというものは献身的で、便利な存在である。利害関係なく、崇拝する相手のためなら採算度外し、なんだって言うことを聞く。見返りなんて必要ない。奉仕こそが幸福になるのだ。利害関係のない支配関係は、その関係に入ればお互いが幸福であるが、側から見れば不平等も甚だしい。従う側は尽くすだけ尽くして喜び以外は得られないのである。ファンの重要性を理解しているヒマキンと若草は、相手を選んで、わざわざ面談し、確固たる関係、便利な熱烈なファンを少しづつ増やしている。
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