第12話

文字数 1,386文字

 「金本位制の時代は、お金の流通量イコール、金の現存量になるわけだけど、やっぱり金には限りがあって、でも、人口が増えていって、お金の流通も増えていった。金の担保がなくなったから、今度は、国の信用を担保に、国家が紙幣を増やし出した。ところで、この国家の信用ってなんだと思う?」
 話の見え方を変えて来た若草に対して、池上は詐欺のそれだと思ったが、この話の展開は面白く感じられる。真っ当な話より、こういった怪しい理屈の方が人を取り込むのに有利だし、聞いてみたいと言う気になる。そこで池上は気が付く
 「若草さん、今、口先だけで国家の信用のようなものを作ろうとしていますね?」
 「池ちゃん、すごいぞ。その通りだ。やっぱり君は賢い。」
 「どういうこと?こんなの怪しい情報ビジネスの勧誘みたいなのに。」
 「寧さん、その通りなんだよ。国家の信用でこのお金は価値があるっていうのは、怪しい情報ビジネスそのものなんだよ。何の価値も無いのに、価値があるように見せるってことなんだ。大衆に興味を持たせるピカピカのハリボテだよ。国家は、国民や外国に対して、この国家は大丈夫ですよって思わせないと、信用させないと成り立たない。だから、経費を使って教育や文化、インフラを整えているんだ。注意を引いて、興味を持ってもらい、中身を見せて信用させないと、そこに暮らしたい、関わりたいと思わせないと、国家に価値が無いんだ。価値がない国家の貨幣なんてものは、どんどん価値が下がっていく。」
 「なんとなく、今の日本のこと言ってるみたいね。」
 「寧ちゃん、日本はまだ、そこまで落ちてないよ。落ちつつあるけど、池ちゃんみたいな人が活躍できている間は大丈夫だよ。まだ、知恵と口車で信用が創り出せる状況にはあるんだ。国民に文化や教育がある間は、なんとかなる。これが、国家に文化も教育もないと、武力に頼って、タトゥー入れた街の不良みたいに力の強さで優劣を比べようとすると、周りから信用を失って、まともに相手にされなくなる。失墜するんだ。プーチンのロシアとかそれだろ?俺は強い、欲しいものは力で奪い取る!っていきり立つ代表者。それに対して国民はうんざり、まわりの国もうんざり。いくら豊富な資源があっても、バカの持ち物ってだけで、二束三文で価値が半減する。まあ、そんな国際情勢はどうでもいいんだ。」
 池上は若草の話を面白く聞いていたが、一方で、話の飛躍と、目的がどうも不明瞭な気がして来た。それに、自分都合の解釈と言ってもいい。断定して理由を付け足しているように思える。結果は、普通にはありえないものに結びつく予感がする。例えば威厳があるものに、全く関わりのないものをぶち込むような不埒な危うさがある。権威ある玉璽に尻のような桃の絵が入り込んだような、アンバランスさを感じてしまう。だが、そのアンバランスで、ふざけているようで、少し卑猥で、間抜けな印は、おそらく、人を惹きつける嘘の事実に成り得る。死が近づくにつれて、生き生きとしてくるような、ダイナミックな矛盾。例えば、葬式の最中、無表情の喪服姿に密かに激しく勃起するような真実。業が常識を破り、その非常識をスタンダードとして振る舞う厚かましさが歴史を作っている事実。悪く思われない、いや、いい人に思われたいとする評価に対する意地汚さを持つ者が、紳士として扱われる滑稽な事実。
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