第43話

文字数 1,326文字

「わっ!ヒマキンがひめこのフォロアーになった!」
思わず沢田賢治は暗い部屋で声を上げる。あのヒマキンに認められたという事実に、胸が息苦しいほど高鳴り、こめかみが激しく脈打つ。じっとしていられないが、画面から目が離せない。体の芯が痺れるような、息苦しい喜びが全身を震わせる。
ヒマキンが最近一日一人フォローをしていると噂があり、どうしても選んで欲しかった。ひめこという自分が作り出したキャラクターには認められる価値があると信じていたが、いまいち評価が伸びないでいた。突破口としては評価の多い人にフォローしてもらうことだと思っていた。だが、なかなかフォローしてもらえるものでもなし、大した内容でもないのに「いいね」が多い人に対して憎悪を感じ始めていた。同時に、抜きん出たい、このままでは終わりたくないと焦っていたところだった。
ヒマキンが「ひめにゃんちゃんねる」のフォロアーになった途端、怒涛のフォロアー数増加。五百を越えるぐらいまで増やしていたが、一晩で十倍になった。ヒマキンがコメントを残した動画は旧車の車庫入れに曲を入れたものだった。「フローリアンって、いいよね。」その一言だけだったが「ヒマキン、フローリアン知ってるんだ!」「フローリアンって何?」などのコメントが賑わった。正直なところ、ひめこによるアニメ解説の動画にいいねが欲しかったのだが、旧車は少し詳しい程度で、そこは見ないでもいいのに、とも思ったが、結果として閲覧数は今までなかったぐらいに増えていき、フォロアー、いいねも放っておいても増えていった。
注目が増えると、沢田賢治は浮き足立った。ようやく世界の入り口にたったような高揚感を覚え、自分の存在が大きくなるような錯覚を感じた。発言力、影響力などの社会に通じる力を身に纏ったような気持ちよさを感じていた。アニメ解説だろうと、旧車の動画であろうと、もうどっちでもよかった。
「ヒマキン様、ありがとうございます!」
一人スマホ片手に、暗い部屋で青白い光に顔を照らされながら、感謝を述べる。感謝の思いより、自分の信仰的な行動に対して沢田賢治は感慨深いものを感じていた。自己に対する没入感を深めていったのだ。だが、自分は喜ぶだけの薄情な人ではない!と思い立ち、ヒマキンの動画全てに「いいね」をして、コメントを残し、ツイッターのコメント全てに「いいね」をして、リツイートした。また、自分と同じようにヒマキンにフォローされた人たちに対してフォローをしたし、同じようにフォローされたらフォローバックも抜かりなく行った。それは膨大な数なので一晩かかったが、眠気を押して、徹底的にフォロー、フォローバック、いいねを行い、フォロワーの確認もした。これまで自分のために時間を費やしてきたが、この一晩は、ヒマキンと、その自分のような仲間たちのために時間を費やした。自分の時間を提供したことによって、特別な集団の、いいねエリートの仲間になれたような気がした。夕方六時から、次の日の朝まで、眠りもせず、怠けもせず、徹底的に我がリーダであるヒマキン賞賛「いいね」とコメント、フォローの網羅とフォロアー分類を行った。
「エージェント福太郎?動画なんてしてないようだけど、ナニモン?」
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