第11話 駅
文字数 1,213文字
朝の満員電車に揺られながら、有希は昨夜の電話のことを思い返す。
あの後、ようやく涙が収まった有希は言った。
「伸くん……」
「うん?」
「伸くんのせいじゃないよ。我がまま言って、ごめん」
すると、伸が言ったのだった。
「我がままだなんて思っていないよ。本当は俺だって、ずっとユウと一緒にいたい。ただ、約束を破って、ユウと会えなくなることが怖いんだ。
それに、ユウのお母さんを失望させたくない。高校生の息子が、父親ほども年の離れた男と付き合うことを許してくれる人なんて、滅多にいないだろう。
お母さんの恩に報いるためにも、ユウのことを大切にしたいんだ。ユウのことを、愛しているから」
「伸くん……」
伸の言葉に、せっかく止まった涙が、また溢れ出した。
その後、伸は、そのうち有給休暇を取って、どこかに出かけようと言ってくれた。出かけなくても、部屋でいちゃいちゃするだけで、有希は十分幸せなのだが、たまには、外でデートするのもいいし、伸が、そんなふうに言ってくれただけで、とてもうれしい。
日曜の夜には、また泊まりに行く約束をして、二言三言、愛の言葉を交わしてから、ようやく電話を切る頃には、すっかり気持ちが晴れていた。
学校の最寄り駅に着き、改札のある隣のホームに向かうため、跨線橋の階段を上る。ちょうど一番上までたどり着いたところで、隣のホームに電車が入って来た。
人の波に混じって階段を下りて行くと、電車を降りて改札に向かう生野の姿が目に入った。思わず足を止めると、後ろから舌打ちが聞こえたので、仕方なく、再び歩き出す。
生野に見つかりたくなかったので、改札の脇に寄って、生野の姿が見えなくなるのを待ってから外に出た。
学校に向かって歩きながら、有希は考える。
もう屋上は使えなくなってしまった。どこか一人でのんびり出来る場所を、別に探さないと……。
教室に入って行くと、さっそく生野が近づいて来た。
「おはよう」
「……おはよう」
有希が自分の席に向かうと、生野も後からついて来る。
「昨日は大丈夫だったか?」
「うん」
「彼氏と仲直り出来たのか?」
有希は席に着きながら、憮然として言う。
「だから、喧嘩なんてしてないし」
「へぇ、そうか。じゃあ、昨日は彼氏と……」
さらに何か言おうとする生野を、有希は遮った。
「だから! そういうの、やめてくれって言っただろ」
「あ……ごめん」
思いがけず、生野は傷ついたような顔をしたかと思うと、そのまま有希のそばを離れて行ってしまった。
生野の後ろ姿を見送りながら、有希は考える。自分の言い方は、少しきつ過ぎただろうか。
いや、無神経な生野がいけないのだ。最近になって、急になれなれしく近づいて来て、人のデリケートな部分をえぐるような言葉を次々に投げかけて来て……。
別に友達なんていなくてもいいし、まして、あんなやつと親しくする気にはなれない。僕は、伸くんさえいれば、それでいいのだ。
あの後、ようやく涙が収まった有希は言った。
「伸くん……」
「うん?」
「伸くんのせいじゃないよ。我がまま言って、ごめん」
すると、伸が言ったのだった。
「我がままだなんて思っていないよ。本当は俺だって、ずっとユウと一緒にいたい。ただ、約束を破って、ユウと会えなくなることが怖いんだ。
それに、ユウのお母さんを失望させたくない。高校生の息子が、父親ほども年の離れた男と付き合うことを許してくれる人なんて、滅多にいないだろう。
お母さんの恩に報いるためにも、ユウのことを大切にしたいんだ。ユウのことを、愛しているから」
「伸くん……」
伸の言葉に、せっかく止まった涙が、また溢れ出した。
その後、伸は、そのうち有給休暇を取って、どこかに出かけようと言ってくれた。出かけなくても、部屋でいちゃいちゃするだけで、有希は十分幸せなのだが、たまには、外でデートするのもいいし、伸が、そんなふうに言ってくれただけで、とてもうれしい。
日曜の夜には、また泊まりに行く約束をして、二言三言、愛の言葉を交わしてから、ようやく電話を切る頃には、すっかり気持ちが晴れていた。
学校の最寄り駅に着き、改札のある隣のホームに向かうため、跨線橋の階段を上る。ちょうど一番上までたどり着いたところで、隣のホームに電車が入って来た。
人の波に混じって階段を下りて行くと、電車を降りて改札に向かう生野の姿が目に入った。思わず足を止めると、後ろから舌打ちが聞こえたので、仕方なく、再び歩き出す。
生野に見つかりたくなかったので、改札の脇に寄って、生野の姿が見えなくなるのを待ってから外に出た。
学校に向かって歩きながら、有希は考える。
もう屋上は使えなくなってしまった。どこか一人でのんびり出来る場所を、別に探さないと……。
教室に入って行くと、さっそく生野が近づいて来た。
「おはよう」
「……おはよう」
有希が自分の席に向かうと、生野も後からついて来る。
「昨日は大丈夫だったか?」
「うん」
「彼氏と仲直り出来たのか?」
有希は席に着きながら、憮然として言う。
「だから、喧嘩なんてしてないし」
「へぇ、そうか。じゃあ、昨日は彼氏と……」
さらに何か言おうとする生野を、有希は遮った。
「だから! そういうの、やめてくれって言っただろ」
「あ……ごめん」
思いがけず、生野は傷ついたような顔をしたかと思うと、そのまま有希のそばを離れて行ってしまった。
生野の後ろ姿を見送りながら、有希は考える。自分の言い方は、少しきつ過ぎただろうか。
いや、無神経な生野がいけないのだ。最近になって、急になれなれしく近づいて来て、人のデリケートな部分をえぐるような言葉を次々に投げかけて来て……。
別に友達なんていなくてもいいし、まして、あんなやつと親しくする気にはなれない。僕は、伸くんさえいれば、それでいいのだ。