第16話 本物

文字数 1,010文字

「それって、彼氏からのプレゼント?」
「まぁ、そうだけど」
「へぇ。やっぱりそうか。そりゃあ必死になって探すわけだよな」
「生野には、感謝してるよ」
「へへっ、そうか。お前、ホントに彼氏のことが好きなんだな」
「それは」
 当たり前だ。だが、改めて人から言われると、なんだか恥ずかしい。
 
「なぁ」
 正面に立った生野が、有希の顔をのぞき込むようにして言った。
「お前がそんなに惚れてる彼氏、俺も見てみたいな」
「……え?」
 生野は、相変わらずにやにやしながら言う。
「彼氏からの大事なプレゼント、見つからなかったらヤバかったよな。もしかしたら、喧嘩になっていたかも」
 穏やかで優しい伸とは、喧嘩にはならないだろうが、彼を失望させるのは確かだっただろう。
 
「俺、確実にお前のピンチを救ったよな」
「だから、えぇと、ありがとう」
 生野が、うんうんとうなずいて言う。
「お礼なんていいけど、お前の彼氏、見てみたいなぁ。お前がどんな男と付き合ってるのか興味があるんだよ」
 そんなことに興味を持たれても困るが、ピンチを救ってもらったのは事実だ。
「写真でもいい?」
「おっ、写真あるの? って、そりゃ彼氏なんだから写真くらいあるに決まってるよな。見たい見たい。見せてくれよ」

 あまり気は進まないが、写真くらい、見せてもいいか。有希は、ロッカーからスマートフォンを取り出し、伸の写真を表示する。
「これ……」
 それは、食事の前に撮った、ビーフシチューを前に微笑んでいる伸で、有希のお気に入りのうちの一枚だ。
「どれどれ」
 生野は、じっくりと眺めてから言った。
「彼氏って、いくつ?」
「三十代だよ」
「へぇ。想像してたのと違うな」
「え?」

 生野は、勝手に画像をスワイプする。
「ちょっと、駄目だよ!」
 有希は、あわててスマートフォンを生野から遠ざけた。生野は、へらへら笑っている。
「想像と違うって、どういうこと?」
「いや、なんかこう、マッチョでワイルドなタイプかと思ってたけど、意外としゅっとしてるな」
「マッチョでワイルドって……」
 いったいどういうイメージなんだ……。
 
「さて」
 生野が、ズボンのポケットに両手を入れて言った。
「次は実物だな」
「……え?」
 ぽかんとしている有希の顔を見ながら、さらに生野が言う。
「写真でだいたいの雰囲気はわかったけど、やっぱり本物が見てみたい。写真を見て、余計にそう思ったよ」
「いや、待ってよ。何言ってんの?」
「何って、言葉の通りだけど」
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