第49話 自撮り
文字数 1,157文字
一人になりたいときは、いつもそうするように、昼休みに屋上に行った。フェンスに寄りかかって腰を下ろしながら、伸にメッセージを送る。
朝、電車の中からメッセージを送ったのだが、既読にはなったものの、返信はなかった。怪我のせいで、文字を打つことが出来ないのかもしれない。
――今、昼休みで、一人で屋上に来ています。伸くん、怪我の具合はどうですか? 何か困っていることはありませんか?
送信した後、じっと画面を見つめていると、既読になった後、すぐに電話がかかって来た。
「もしもし?」
「ユウ。朝もメッセージをもらったのに、返信出来なくてごめん」
「うぅん」
「左手じゃ、うまく文字が打てなくてね」
「そうじゃないかと思ってたよ。大丈夫? お昼ご飯は食べた?」
「ありがとう。ちゃんと食べたよ」
「薬は飲んだ?」
電話の向こうで、伸がふふっと笑ったのがわかった。有希はあわてて言う。
「ごめん。なんかお母さんみたいなこと言って」
「いいよ。ユウが心配してくれてうれしい」
「それならいいけど」
それから有希は、恐る恐る切り出した。
「今日の放課後だけど……」
だが、伸が言った。
「さっき母から電話があって、店を早めに閉めて、夕方来るって」
わかってはいたが、やはりがっかりする。
「そう……」
「ごめんよ。本当はユウの顔が見たいけど」
すまなそうにする伸に、有希は、あえて明るく言い返す。
「そんな、謝らないでよ。お母さんがお世話してくれるなら、僕も安心だし。あっ、ちょっと待って」
有希は、空をバックに笑顔で自撮りをして、伸に送信した。
「今、写真を送ったから見て」
「あぁ。すごくかわいいね」
「そう? 伸くんが、『ユウの顔が見たい』って言ったから」
伸が笑い声を上げた。
「ありがとう。うれしいよ」
「よかった。ねぇ、伸くんの顔も見たい」
「えっ。朝起きたときのままで髪がボサボサだし、髭も剃っていないよ」
「それでも見たい」
「わかったよ」
少しの間があってから、軽く微笑んだ伸の写真が送られて来た。少し乱れた髪はセクシーだと言えないこともないし、髭はそれほど目立たないが、光の加減のせいか、目の下に隈が出来ているように見えるし、心なしか頬がこけている気がする。
写真に見入っていると、伸が言った。
「むさ苦しくてごめん」
「そんなことない。すごくセクシーでかっこいいよ」
「そうか?」
有希は、少しだけ後悔していた。伸の顔を見たことで、余計に会いたくなってしまった。
黙り込んでいると、伸が言った。
「時間は大丈夫? そろそろ授業が始まるんじゃないの?」
「あぁ。そうだね」
とても寂しくなって、なんだか泣いてしまいそうだ。
「じゃあ、授業頑張って」
「うん……」
「ユウ?」
「……何?」
「ごめんよ」
有希は、こぼれた涙をぬぐいながら言った。
「だから、謝らないでよ……」
朝、電車の中からメッセージを送ったのだが、既読にはなったものの、返信はなかった。怪我のせいで、文字を打つことが出来ないのかもしれない。
――今、昼休みで、一人で屋上に来ています。伸くん、怪我の具合はどうですか? 何か困っていることはありませんか?
送信した後、じっと画面を見つめていると、既読になった後、すぐに電話がかかって来た。
「もしもし?」
「ユウ。朝もメッセージをもらったのに、返信出来なくてごめん」
「うぅん」
「左手じゃ、うまく文字が打てなくてね」
「そうじゃないかと思ってたよ。大丈夫? お昼ご飯は食べた?」
「ありがとう。ちゃんと食べたよ」
「薬は飲んだ?」
電話の向こうで、伸がふふっと笑ったのがわかった。有希はあわてて言う。
「ごめん。なんかお母さんみたいなこと言って」
「いいよ。ユウが心配してくれてうれしい」
「それならいいけど」
それから有希は、恐る恐る切り出した。
「今日の放課後だけど……」
だが、伸が言った。
「さっき母から電話があって、店を早めに閉めて、夕方来るって」
わかってはいたが、やはりがっかりする。
「そう……」
「ごめんよ。本当はユウの顔が見たいけど」
すまなそうにする伸に、有希は、あえて明るく言い返す。
「そんな、謝らないでよ。お母さんがお世話してくれるなら、僕も安心だし。あっ、ちょっと待って」
有希は、空をバックに笑顔で自撮りをして、伸に送信した。
「今、写真を送ったから見て」
「あぁ。すごくかわいいね」
「そう? 伸くんが、『ユウの顔が見たい』って言ったから」
伸が笑い声を上げた。
「ありがとう。うれしいよ」
「よかった。ねぇ、伸くんの顔も見たい」
「えっ。朝起きたときのままで髪がボサボサだし、髭も剃っていないよ」
「それでも見たい」
「わかったよ」
少しの間があってから、軽く微笑んだ伸の写真が送られて来た。少し乱れた髪はセクシーだと言えないこともないし、髭はそれほど目立たないが、光の加減のせいか、目の下に隈が出来ているように見えるし、心なしか頬がこけている気がする。
写真に見入っていると、伸が言った。
「むさ苦しくてごめん」
「そんなことない。すごくセクシーでかっこいいよ」
「そうか?」
有希は、少しだけ後悔していた。伸の顔を見たことで、余計に会いたくなってしまった。
黙り込んでいると、伸が言った。
「時間は大丈夫? そろそろ授業が始まるんじゃないの?」
「あぁ。そうだね」
とても寂しくなって、なんだか泣いてしまいそうだ。
「じゃあ、授業頑張って」
「うん……」
「ユウ?」
「……何?」
「ごめんよ」
有希は、こぼれた涙をぬぐいながら言った。
「だから、謝らないでよ……」